「C+pod」で考える、超小型モビリティの仕様はどこで誤ったのか?:池田直渡「週刊モータージャーナル」(5/5 ページ)
昨年末の記事で、トヨタの「C+pod」について、限り無く全否定に近い評価をした。試乗する前に開発者とも話しているので、当人の顔が思い浮かんで、非常に気は重かったが、とはいえ、読者に本当のことを伝えないなら原稿を書く意味がないので、そこはもう正直に忖度(そんたく)なく書かせてもらった。
雨の日、高齢者、歩行困難者
健常者で、晴天ならばこれでほとんどが事足りる。では雨の日にどうするか? そこもまた埋まっていないパーツである。まずは健常者の話だ。超小型モビリティの失敗は車道を走らせようとしたことだ。歩道を走るか、スクーターのようにクルマが追い越し可能なコンパクトな車体で車道の混走をする以外にない。
トヨタへのダメ出しがスタートなので、解決策もひとまずトヨタのモデルをベースに提案していく。例えばトヨタの立ち乗り小型モビリティ「C+walk T」に筒型の簡易テントを装備するのはどうだろうか? おそらく自転車1台分のスペースに3台は停められる。
横風の問題などもあるだろうが、それは自転車だって同じだ。無謬(むびゅう)性を求めると行き先がなくなる。これも電動キックボードと同様に時速10キロを上限とする。万が一の転倒の際、車両と一緒に倒れないために、このテントからどう脱出するかはちょっと工夫が必要だが、そうなるとポンチョかカッパという話になってしまう。Tシャツで出勤できる会社なら良いが、スーツがいるような環境だと、ちょっと難しいかもしれない。
最後に高齢者や、歩行困難な人のパーソナルモビリティだが、これは従来の電動車椅子に幌(ほろ)をかけるしかないだろう。ひと頃に比べて車体がコンパクトになってきているので、歩道を走るには少し扱い易くなっているはずだ。トヨタでもC+walkの着座仕様を用意している。コレに屋根が付けられれば現状可能な範囲で利便性を持たせられるのではないか。これまで耐候性が完全にアウトだったことから見れば進歩である。
とはいえ、多数の選択肢からケースバイケースで最適なものを選べる健常者と違って、歩行困難者の場合は第二選択肢がない。これで全てをと考えると、どこでも電動車椅子が通れるほどには歩道が整備されていない。ここだけ少し脆弱(ぜいじゃく)なことは否めないので、インフラも含めてより使う人に優しい問題解決を考えていく必要を感じる。
ということで、まとめである。パーソナルモビリティは、本来全体のグランドプランを作って、足りないパーツを埋めていくものだと思う。それを全体図も考えないで、ただ軽自動車をもう少しコンパクトにしたところで、何もメリットがなかったという話である。
筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミュニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う他、YouTubeチャンネル「全部クルマのハナシ」を運営。コメント欄やSNSなどで見かけた気に入った質問には、noteで回答も行っている。
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