【自動車メーカー7社決算】ものづくりのターニングポイントがやってきた:池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/3 ページ)
内自動車メーカーの第3四半期決算が出揃った。しかし、今年の第3四半期決算は少し趣が違う。どう違うかを解説する前に、まず第2四半期までの状況を振り返っておこう。
ポイント3 高利益車をラインアップできるか?
では、勝負はどこに依存するかといえば、いわゆる決算項目でいう「台数×構成」の構成の部分がポイントになってくる。台数はいかんともしがたいので、より高いクルマをどれだけ売れるかだ。
値引き無しの厳しいマーケットで、それでもユーザーが納得してお金を払ってくれるだけ良いクルマが造れているかが勝負の大きな分かれ目になってきた。
具体的にいえば、ここで成功したのは第一にトヨタである。この10年「もっといいクルマ」改革を進め、売れ筋のSUVをフルラインアップ展開してあったため、定価販売勝負になった時、顧客が財布を開きやすい。これがトヨタが第3四半期として史上最高益を叩き出した最大の理由だろう。
同じく、いち早くラインアップを刷新し、高付加価値販売にシフトしていたマツダもまた、トヨタほどではないが、第3四半期決算の勝ち組となった。これは利益率の押し上げ水準から類推できる。今更いっても詮無(せんな)いが、これでラージプラットフォーム戦略が1年遅れていなければ、一気に花開く年になった可能性もある。
ちなみに販売台数そのものも昨対でプラスになっているところが多いが、これはそもそも昨年、不意打ちで世界中がロックダウンの嵐に見舞われていた時期との比較なので、本来は一昨年と比較しないと健全性は評価できない。各社の資料には一昨年同期のデータが盛り込まれている社もあるが、全社ではない。いずれにせよ、販売台数で昨年水準をさらに割り込んでしまったホンダとスバルは、逆境に弱すぎである。
また個別に見ると、極めて厳しかった状況からのスタートで、善戦しているのは日産だ。日産の場合、高付加価値商品ラインアップの完成が、第3四半期に完全に間に合ったとはいえない。その中で何とか台数をプラス、営業利益をプラス、営業利益率も増加に持ち込んだことは大きい。逆境に負けるわけにはいかない局面で、激しい向かい風に打ち勝った。まだしばらくは安全圏とはいえないが、この四半期毎の一歩ずつの積み重ねでしか巻き返しは実現できない。そこを一歩一歩前進していることには賞賛の拍手を惜しまない。
全体を通しての所感だが、新型コロナが間もなく終結を向かえるという楽天的な見通しを誰も持てない現状で、今後もさまざまな部品が供給不足を迎えるだろう。物流も含めてこれだけの規模に広がってしまうと、事前の対策で何とかしようという考え方ではもうどうにもならない。
ある日何かが届かなくなったらどうするか。そういう臨機応変の即応がどこまでできるかが、コロナ経済下での競争領域になっていくと思われる。長らく、緻密に計算して予定通りに事を進める能力がものづくりの勝負を分けて来たが、今その勝敗を決めるのはイレギュラーへの対応力へと様変わりしようとしているのではないか? ホンダとスバルは即応力の引き上げを早急に行う必要があるように思える。
筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミュニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う他、YouTubeチャンネル「全部クルマのハナシ」を運営。コメント欄やSNSなどで見かけた気に入った質問には、noteで回答も行っている。
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