「アツギ」工場閉鎖で青森県むつ市は“困惑” ストッキング大手の低迷と、中国依存のリスク:長浜淳之介のトレンドアンテナ(6/6 ページ)
ストッキング大手のアツギが国内工場を閉鎖し、中国での生産にシフトすると発表した。日本最大級のストッキング工場がある青森県むつ市では「寝耳に水」と対応に追われている。業界をリードしてきたアツギはなぜ苦戦するようになったのか。
むつ市にとっては寝耳に水
アツギは遅ればせながら、今まで弱かったメンズのソックスと下着を強化している。昨年10月に再建中のレナウン子会社、レナウンインクスを買収して、高品質の商品供給が可能になったのは喜ばしい。
しかし、主力工場が閉鎖となる、むつ市にとっては寝耳に水の出来事で、「市政始まって以来最大の雇用危機」(むつ市役所)と、再就職を支援する対応に追われている。
日本は、マスクの製造を中国にほぼ全面依存していた。そのため、コロナ禍の感染拡大で生産が止まると、日本に商品が入って来なくなった恐さをわれわれは学んだばかりだ。
「コロナによって海外リスクを考慮して、国内へと生産を戻す企業の動きがあると聞いている。アツギは逆行しているのではないか」(同)と、地元の不満と失望感は高まっている。
アツギの公式Webサイトを見ると、「ATSUGI品質へのこだわり」として、「素材開発から自社で手がけているアツギには、『匠』と呼ぶにふさわしい職人気質の技術者が多数存在します」と誇らしげに記載している。しかし、今後は中国のような海外で継承されることになる。さらに、中国の人件費はどんどん上がっていて、そう遠くない将来、採算が合わなくなる恐れがある。
国際分業のグローバリゼーションより、国内に基盤を持って世界に出ていくグローカルへと、経営の流れがシフトしている。そんな中で、アツギはグローカル企業を目指した創業者・堀氏の精神に逆行し、危ない橋を渡ろうとしているように見えるのだ。
著者プロフィール
長浜淳之介(ながはま・じゅんのすけ)
兵庫県出身。同志社大学法学部卒業。業界紙記者、ビジネス雑誌編集者を経て、角川春樹事務所編集者より1997年にフリーとなる。ビジネス、IT、飲食、流通、歴史、街歩き、サブカルなど多彩な方面で、執筆、編集を行っている。共著に『図解ICタグビジネスのすべて』(日本能率協会マネジメントセンター)など。
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