「東急ハンズ」はなぜ追い詰められたのか コロナ前からの“伏線”と、渋谷文化の衰退:長浜淳之介のトレンドアンテナ(1/6 ページ)
東急ハンズ売却のニュースは大いに話題になった。追い詰められた背景には何があるのか。コロナ前からの“伏線”に迫る。
昨年12月22日、東急ハンズがカインズに買収されることが発表され、波紋を呼んでいる。
都心部・駅前立地の東急ハンズは、コロナ禍による外出の自粛で大きな影響を受け、2021年3月期の売り上げが632億円(前年同期比65%)と、前年のほぼ3分の2の規模へと大きく落ち込んでいた。また、営業損失は44億円の赤字に転落した。
22年3月期も、第2四半期までの売り上げが273億円となっていて、前年同期の291億円から18億円減少していた。営業損失は24億円で、前年同期より赤字が2億円増えていた。そのため、2期連続の期末赤字が濃厚であった。
コロナ禍が終息しても、密を避けるライフスタイルへの変化により、都心部の店舗がコロナ前の売り上げにまで戻るかどうかは不透明だ。
一方のカインズは、ホームセンター業界最大手。21年2月期の売り上げは過去最高の4854億円だった。前年比110%であり、好調に推移している。
カインズは群馬県前橋市を拠点とするベイシアグループの中核企業だ。カインズに限らずベイシアグループはこれまでM&Aを活用せず、自力で成長するポリシーを貫いてきた。それにもかかわらず、異例の大型買収に踏み切った。
ベイシアグループは、ベイシア、ワークマンなども含めて、グループ年商が1兆円を超える。
日本の小売業ではトップ10に入る規模だ。8兆円を超えるイオン、5兆円を超えるセブン&アイ・ホールディングスには遠く及ばないものの、三越伊勢丹ホールディングスの約8000億円よりも大きい。その巨大流通グループがいよいよM&Aを本格化させるとなると、小売業の地図が一変する起爆力を持つ。
東急ハンズは、東急不動産ホールディングス(HD)の傘下にある。傘下にある他の有力企業は、東急不動産や東急リバブルなど、ほぼ不動産業の範囲内だ。一方、東急ハンズは小売業で、性格を異にしている。東急不動産HD内の事業別売上高は6.8%で、都市再開発などを行う都市事業32.7%、住宅事業15.7%、マンションなどの管理事業19.8%と比べても、グループ内シェアが低かった。
同じ東急グループに属していても、東急百貨店、東急ストアは、東急電鉄と同じく東急の100%子会社で系統が違っていた。東急ハンズのグループ内の微妙な位置付けが、M&Aにつながった面もあった。
カインズでは、「東急ハンズをカインズにはしないが、店名は変更する」と明言しており、これまで見知ってきた東急ハンズの歴史は遠からず終わりを迎える。
東急ハンズのファンにとってはどうか。たとえ中身が大きく変わらなくても、別の店名に看板が書き換えられた“元東急ハンズ”になっては、寂寥(せきりょう)感を禁じ得ないだろう。
なぜ、東急ハンズは売却されることになったのか。
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