「そごう・西武」の売却騒動は“必然”だった!? 成功する「企業コラボ」の法則に迫る:業種と業態の関係を考える(4/4 ページ)
セブン&アイ・ホールディングスが傘下のそごう・西武の売却に向けて動いている。筆者は、「企業コラボ」の視点から今回の出来事は“必然”だったと指摘する。どういうことかというと……。
セブン&アイHDは総合小売業をやめるのか?
このような企業コラボの視点で考えると、セブン&アイHDによるそごう・西武の買収はうまくいきそうな組み合わせに見えますが、成果につながりにくいコラボだったといえます。しかし、同社の狙いは、単なるコラボというより、そごう・西武を傘下に収めることで本当の総合小売業へとバージョンアップすることだったはずです。
本来は、このようにピンからキリまで業態をそろえて、全ての客層をカバーする業容に拡大し、総合小売業として小売りナンバー1企業を目指していました。
しかし、現在のセブン&アイHDはコンビニ事業に注力しようとしており、総合化から専門化に動き始めているようです。
一方、今や売り上げ40兆円を超えるネット小売り最大手のアマゾンは、総合小売業へと業容を拡大させています。書籍のネット販売からスタートした同社は、徐々に品ぞろえの幅を広げてきました。今や百貨店よりも広く深い品ぞろえをネット上で実現させています。同時に、アマゾンゴーやアマゾンフレッシュなどの無人コンビニやスーパー、リアル書店などを展開しています。食品スーパーのホールフーズを17年に買収し、食品小売りの実店舗運営にも本格的に乗り出しています。また22年秋にはアマゾンスタイルというファッションの実店舗を米ロサンゼルスにオープンさせる予定です。
アマゾンはセブン&アイHDとは逆に、総合小売業への道を着々と歩み始めています。もしかしたら日本の百貨店をアマゾンがリアル店舗の場として活用するということもあるかもしれません。
本来的には総合小売業こそが、小売り市場で勝ち続けるための道です。ありとあらゆる客層に対応するためには総合化が商圏制圧につながるからです。
コンビニを主体にした効率のよい業種に絞っていく予定のセブン&アイHD。
一方でネットを主体にリアルの店舗展開を総合的に拡大していくアマゾン。
これからの小売りの世界では、成功する企業コラボの考え方に基づいて、より効果の高い組み合わせを実現することで、新しい市場を作り出していく必要があると思います。
そごう・西武の行方、今後のリアル店舗の展開、総合小売業の在り方――今の閉塞感のある日本の小売市場を突破するためのカギを企業コラボが握っています。
著者プロフィール
岩崎 剛幸(いわさき たけゆき)
ムガマエ株式会社 代表取締役社長/経営コンサルタント
1969年、静岡市生まれ。船井総合研究所にて28年間、上席コンサルタントとして従事したのち、同社創業。流通小売・サービス業界のコンサルティングのスペシャリスト。「面白い会社をつくる」をコンセプトに各業界でNo.1の成長率を誇る新業態店や専門店を数多く輩出させている。街歩きと店舗視察による消費トレンド分析と予測に定評があり、最近ではテレビ、ラジオ、新聞、雑誌でのコメンテーターとしての出演も数多い。
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