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氷河期世代という物語 「非正社員が多い」は幻想か?統計を読む(1/2 ページ)

1993年〜04年に学校卒業期を迎えた世代、いわゆる「氷河期世代」。バブル崩壊後の不況で正社員になれず、非正社員でいる人が多いといわれますが、この物語は本当なのでしょうか。統計をひも解いてみると……?

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 「魔の三角海域」といわれる場所があります。この海域を通った船や飛行機が原因不明の事故に遭う──と、チャールズ・ベルリッツが著書『謎のバミューダ海域』で紹介して有名になりました。遭難の原因として磁力の異常だとかメタンハイドレートだとかいろいろな説が唱えられました。しかし真相は、“魔”でも何でもない、ということが分かりました。

 「就職氷河期」も、後世で“三角海域”になる可能性があります。就職氷河期は、厚生労働省が2020年から「特定求職者雇用開発助成金(就職氷河期世代安定雇用実現コース)」という助成金を設けているほど、社会問題化しています。しかし「どうしてこのようなことが起こったのか」「こういう対策を打つべきだ」ということが議論され、よく調べてみたら、氷河期世代という物語自体がフィクションだった──ということになるかもしれません。

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写真はイメージです(提供:ゲッティイメージズ)

 厚生労働省が19年8月に発表した「就職氷河期支援施策の取り組みについて」では、氷河期世代を「おおむね1993年〜04年に学校卒業期を迎えた世代」と定義しています。21年時点で、高校卒業で35〜46歳、大学卒業で39〜50歳になっています。この世代の人たちはバブル崩壊後の不況の影響で正社員になれず、非正社員でいる人が多いというのが、氷河期世代という物語です。

「氷河期世代」は非正規が多いのか

 しかし統計を見る限り、この世代の人たちに非正規社員が多いという証拠はありません。図1は、総務省統計局の「労働力調査」の中から、男性の「非正規の職員・従業員」の雇用者(雇われて働いている人)に占める割合(21年現在)を表したものです。女性は30代後半から50歳というと、世代を問わず育児などの事情で、非正規で働く人の割合が多いので、男性だけで比較しました。20〜24歳は在学中の人を除きます。したがって非正規に学生アルバイトは含まれていません。

 これをみると、35〜50歳の人が前後の世代に比べて非正規比率が高いという傾向はみられません。むしろ低くなっています。氷河期世代はいま非正規社員が多いと考えるのは誤りです。

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図1:年齢階級別の男性正規・非正規労働者の割合(2021年)

注1:総務省統計局「労働力調査」をもとに作成

注2:「20〜24歳」は在学中の人を除く

「氷河期世代」は就職も決まらずに卒業したのか

 図2は厚生労働省の「大学・短期大学・高等専門学校及び専修学校卒業予定者の就職内定状況等調査」にみる、各年4月時点での、大学、短大、高専を合わせた就職率の推移です。96年以前は調査が行われていないので、「氷河期」のうち93〜96年の4年間は網羅していませんが、04年以前の内定率が際立って低いわけではありません。いずれの年でも90%を超えています。氷河期世代の人たちの多くが就職も決まらないままに学校を卒業したと考えるのは誤りです。

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図2:大学、短期大学、高等専門学校卒業者の就職率

注1:厚生労働省の「大学・短期大学・高等専門学校及び専修学校卒業予定者の就職内定状況等調査」をもとに作成。

注2:各年4月1日現在の就職率

不本意な就職をした可能性

 もっとも、「氷河期」が完全な幻想だったというわけではありません。

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