「人生のピークは慶應合格」「会社では三軍扱い」――社長の息子が味わった挫折と、起業までのデコボコ人生(1/3 ページ)
飲食業や製造業など、世の中には無数の「現場」が存在する。現場の生産性向上を手助けするサービス「カミナシ」を立ち上げた男がいる。事業を軌道に乗せるまでの紆余曲折とは? 今回は前編。
3000人近い従業員を抱える会社社長の家に生まれた後、紆余曲折を経て起業した男性がいる。
「慶應ボーイとして大学デビューするが、インターンシップで挫折」「新卒で入社した企業では、三軍扱い」「父親の会社で新規事業にチャレンジするが、1100万円を1カ月で無駄にする」「失敗だらけの起業」――現在の事業を軌道に乗せるまでの“デコボコ人生”を前後編でお届けする。今回は前編(後編:「1100万円の損失」「誰も使わなかったシステム」――失敗続きだった社長を支えた“根拠のないポジティブさ”)。
現場の生産性を向上
2000年代後半から急速に普及したSaaS(Software as a Service)。GmailやZoomなど、プライベートで活用されるものもあれば、Salesforceやサイボウズのkintoneなど、ビジネス向けのものまで、われわれの身の回りにはSaaSが溢れかえっている。
ただ、ビジネスにおけるSaaSのほとんどが、デスクワーカーを対象としている。Emergence Capital Partnersが18年に実施した調査では、世界中のスタートアップ投資の実に99%が、人口の2割にすぎないデスクワーカー対象のものに向けられているという結果だった。
つまり、これまでデスクワーカー以外の「ノンデスクワーカー」は、SaaS普及の恩恵を受けることがほとんどなかった。いわば、見捨てられた領域だったのだ。
そこに登場したのが現場改善プラットフォーム「カミナシ」だ。
飲食業、製造業、サービス業など、世の中には無数の「現場」が存在する。これまでそうした現場では、紙に書き込んだ情報を紙のままにするか、紙の情報をExcelなどに打ち込んで管理することがほとんどだった。
カミナシは現場の業務フローにもとづいて、導入企業がカスタマイズすることが可能で、現場での正しい作業ナビゲーションの徹底やチェックデータのリアルタイムな一元管理を実現している。
運営するカミナシ(東京都千代田区)のCEOである諸岡裕人氏はこう話す。
「デスクワーカーには、時代の変化とともに、どんどん新しい武器が手渡されてきた。ところが、現場の武器は『紙と鉛筆』がメインで、竹槍で戦い続けていたようなものです。僕はそんな人たちに『ライトセイバー』くらいのすごい武器を渡したいんです」
現在、16業界の150社超に導入されており(1月末時点)、今年1月にもルートインジャパンを中核とするルートイングループが導入を決めた。
全国に約360のホテルや飲食店、ゴルフ施設などを擁するルートイングループでは、年間約30万枚の紙の帳票が利用されていた。そこにカミナシを導入することで、約14万枚の紙帳票が削減できると見込んでいる。
ノンデスクワーカー領域で浸透中のカミナシが抱えるミッションは「ノンデスクワーカーの才能を解き放つ」。
現場のDXによって業務効率化を図るのは、カミナシにとって通過点にすぎないという。
DXにより、現場での作業時間が減ったとして、そこから先の世界観まで提供するのが諸岡氏の考えるカミナシの仕事だ。
「何もすることがない暇な時間が生まれるだけでは、仕事人生という意味では、全然エキサイティングじゃありません。
現場には、『こう変えたい』というアイデアは無数にあります。しかし、実現のためのコストが高かったために、断念せざるを得ない場面もあった。
カミナシという武器によって単調な仕事から解放された人々が、まるで『プロジェクトX』の登場人物のように、さまざまな現場で、ドラマチックな変革を生み出すことができれば世界が変わるはずです」(諸岡氏)
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