「人生のピークは慶應合格」「会社では三軍扱い」――社長の息子が味わった挫折と、起業までのデコボコ人生(2/3 ページ)
飲食業や製造業など、世の中には無数の「現場」が存在する。現場の生産性向上を手助けするサービス「カミナシ」を立ち上げた男がいる。事業を軌道に乗せるまでの紆余曲折とは? 今回は前編。
慶應大学に合格して調子に乗った
諸岡氏の起業は、2016年の年末。大手企業にも採用されるサービスに成長したカミナシだが、それからの5年は決して平たんな道ではなかった。
「そもそも大学入学以降、とにかく浮き沈みの激しい人生です。そして、ほんの3年前、35歳くらいまでは、大学に合格したときが人生のピークでした」(諸岡氏)
諸岡氏は1984年、成田山新勝寺の参道に軒を連ねる羊羹屋に生まれた。創業100年を超える老舗の跡継ぎとして育てられ、「サッカー選手になりたい」と言おうものなら、家族どころか親戚中から「ダメだ」と返される。
しかし、父であり、3代目として店を継いでいた諸岡勲氏が、1988年に「ワールドエンタプライズ」(千葉県成田市)を起業。それをきっかけに「4代目」の運命にも変化が生まれた。
「全日空が成田空港に飛行機を飛ばすにあたって、機内食の食器を洗ってくれる会社がない。めちゃくちゃ困ってるけど、どこか受ける会社があれば、絶対もうかると思う」。現在、約3000人の従業員を抱えるワールドエンタプライズが生まれたきっかけは、飛行機でたまたま乗り合わせた人から、勲氏がそんな話を聞いたことだった。
勲氏の手腕のもと、ワールドエンタープライズは事業規模をどんどん拡大していった。
「食卓の話題の8割は父の仕事の話でした。『今日はこんな契約が取れた』とか、『こういう従業員はこういうふうに指導しなきゃいけない』とか、立志伝中の主人公を砂かぶり席で見ているような感覚でしたね。
何度も同じ話をされて、兄弟で閉口することもありました。しかし、理不尽な契約解除に抗議するため、単身で海外に乗り込み、無事、解除を撤回させたなんて話は、子どもながらにかっこいいと思いました」(諸岡氏)
羊羹屋だけを継ぐのであれば、あまり興味はわかなかった。しかし、事業家に憧れるようになり、いずれ、ワールドエンタプライズも含めて自分が継ごうと決意する。
高校3年生に上がった頃はクラスでも最低の成績だったが、奮起して勉強に打ち込み、慶應義塾大学に入学した。
「先生からも諦められていたくらいですが、周りで慶應クラスの大学に行く人はほとんどいないので、みんなの評価が一変するし、もう鼻高々でした。もしかして俺は天才なのかもしれない、と調子に乗って、大学に入ってからは特に努力もせず、のほほんと過ごしていましたね」(諸岡氏)
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