不妊治療助成に学生出産奨励……、政治家の「産めよ増やせよ」が「女に死ねというのか」と炎上:浦上早苗「中国式ニューエコノミー」(2/5 ページ)
一人っ子政策を廃止して「3人目容認」に舵を切り、不妊治療の助成や育児休業拡充を次々に導入した中国。国会に相当する全国人民代表大会では、政治家が出生率向上に向けさまざまな提言を行ったが、女性の立場や社会の実情を無視した的外れなものも少なくなく、ネットではブーイングの嵐だった。
2014年には1億円の罰金事例も……
一人っ子政策は長らく中国を特徴づける代表的な政策だった。同国は人口爆発を懸念し、1979年に夫婦1組に1人の子どもしか認めない政策を導入、晩婚と晩産を奨励し2人目の出産には罰金を科した。
先日の北京冬季オリンピック・パラリンピックの開会式で演出を手掛けた張芸謀(チャン・イーモウ)氏も2014年に(再婚した妻との間に)3人の子どもがいることが発覚、1億円超の罰金を支払った。
だがその直後の15年、労働力不足を懸念した中国は一人っ子政策を廃止した。にもかかわらず出生率は低下の一途をたどり、全人代常務委員会は昨夏、2人以上の出産にかかる罰金を撤廃。経済的インセンティブを付与する「改正人口・計画出産法」を施行した。政府は出産を「容認」するだけでは足りず、「奨励」が必要だとようやく気付いたのだ。
法改正をきっかけに、地方政府は次々に独自の子育て支援策を導入した。北京市は第3子出産時の産休を延長し、複数の省が3人目出産にかかる医療費や手当を支援すると決定した。四川省攀枝花市は2人目以降の子どもが3歳になるまで毎月500元(約900円)の手当を支給することにした。
ほかにも複数の子どもがいる世帯を住宅購入や中低所得者向け賃貸住宅の入居で優遇する事例もあり、日本の少子化対策と似た状況になりつつある。
今年2月には、北京市が体外受精など不妊治療に伴う医療行為の一部に保険を適用すると発表し、ネット上で他地域への拡大を求める声が相次いだ。
四川省は3月、市民の提言に「ほかの都市の政策を参考にしながら、成熟した不妊治療の技術については保険適用を前向きに検討したい」と回答した。同省は21年に策定した五か年計画で、不妊治療を行う医療機関の増加や人材育成を既に盛り込んでいる。山東省も市民の直訴に前向きな返事をした。
10年前に人工中絶の広告が公共交通機関やテレビCMにあふれていたことを思うと、隔世の感がある。不妊治療助成の全国的な広がりを期待し、株式市場では関連企業の株価が上昇している。
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