高くなるクルマ コスト高は本体価格だけではない:高根英幸 「クルマのミライ」(5/5 ページ)
この20年、サラリーマンの給料が上がらないといわれているにもかかわらず、クルマの価格は上昇していく一方だ。軽自動車でも200万円が当たり前の時代。クルマを買い替えよう、あるいは新たに購入しようと思った時、感じたことはないだろうか「クルマって高くなったなぁ」と。
クルマへの恒久的な減税で国内景気の支えに
燃料価格が高騰し始めたのは中国の需要が回復したことが大きな原因だが、ウクライナ危機で原油価格は上昇している。ほとんどの先進国でエネルギーの確保が問題になり、化石燃料の確保が問題になっている。
こうなるとトリガー条項を発動したところで、以前のような燃料価格に落ち着くことは当面考えられない。いや、この先、化石燃料の価格は下がらない、と思っていた方がいいかもしれない。同じことはクルマ自体にもいえる。
円安の影響もあってプラスチックや鉄、アルミなどの原材料コストや製造に関するあらゆるコストも上昇するので、さらにクルマは高価になっていく。
そうした状況がカーシェアの需要を引き上げると考える向きもある。確かに当初は増えるだろうが、カーシェアでは自分が必要な時には他人も必要な場合が多く、普及するほど利便性が高まるものではない。カーシェア利用によって個人利用へのシフトを促す効果の方が経済的には期待できる。
国内市場は縮小するばかりで利益を生み出し続けることは難しい、と判断している自動車関連企業も少なくない。さらに国境炭素税が導入されれば、海外市場に向けての輸出も厳しくなる。国内市場でも利益を出していかなければ、日本の自動車産業は生き残っていけなくなるだろう。
であれば日本政府も税制面で協力していくべきだ。エコカー減税などの補助金ではなくクルマに課せられる複数の税制を整理して、一般ユーザーの負担を軽減するべきだろう。そして高額車両には特別税を課すことで、プレミアム感を維持しながら税収を確保していくのだ。
一方で超小型モビリティを推進して、従来の軽自動車の税負担は上昇させてバランスを取る必要もある。それこそが「クルマが高くなった」ことへの満足感を高める方法であり、庶民も移動の自由を享受しながら脱炭素へと向う道筋だろう。
これから個人向けのモビリティ市場は富裕層向けのプレミアムな移動サービスと、コストパフォーマンスを追求した移動サービスへと二極化していくことになるだろう。その結果、新たな商品やサービスが生まれてくる。そう、少なくとも完全自動運転のタクシーが普及するまでは、さまざまなサービスが登場することだろう。
筆者プロフィール:高根英幸
芝浦工業大学機械工学部卒。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。これまで自動車雑誌数誌でメインライターを務め、テスターとして公道やサーキットでの試乗、レース参戦を経験。現在は日経Automotive、モーターファンイラストレーテッド、クラシックミニマガジンなど自動車雑誌のほか、Web媒体ではベストカーWeb、日経X TECH、ITmediaビジネスオンライン、ビジネス+IT、MONOist、Responseなどに寄稿中。近著に「ロードバイクの素材と構造の進化(グランプリ出版刊)、「エコカー技術の最前線」(SBクリエイティブ社刊)、「メカニズム基礎講座パワートレーン編」(日経BP社刊)などがある。企業向けやシニア向けのドライバー研修事業を行う「ショーファーデプト」でチーフインストラクターも務める。
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