マツダのラージPF、CX-60プロトタイプに乗る:池田直渡「週刊モータージャーナル」(7/9 ページ)
長らく話題になってきたマツダのラージプラットフォームの頭出しとして、CX-60が発表になった。さらに、それに先駆けて、山口県美祢のマツダのテストコースで、プロトタイプモデルの試乗会が行われた。諸般の都合で、大事なことをいろいろ置き去りにしつつ、まずはインプレッションから書き始めなければならない。
ナチュラルな直進性がもたらしたもの
直進性はよく煮詰められている。ギブスをしたような強引なものではなく、肩の力を抜いたままスーッと自然に直進する。聞くと、こういうフィールにしたのはエンジニアのこだわりで、目指したのはどこまでもナチュラルな直進性であり、レールの上にハマったような微動だにしないフィールには仕立てたくなかったのだそうだ。
ステアリングは支持剛性も高く、切り込み開始からある程度舵角が増えたところまで、切るときも戻すときも保舵力が一定している。これもこだわりがあってのセッティングである。具体的にはフロントキャスターを立てている。キャスターを寝かせると、操舵時に舵角によって「シャシーを基点とした前輪軸の座標」が上下にも左右にも変わる(操舵軸を路面と平行なところまで寝かせたらどうなるかを想像すると分かると思う)。
ハンドルを真ん中に戻そうとする力をキャスターアクションといい、その源であるキャスターアングルは必要だが、悪さもする。それが場面によって車両を「持ち上げる」「左右に振る」アクションにつながって保舵力の変化を呼び、ステアリングのフィールを悪くする。それをパワステのフィードバックの厚化粧で消す方法はあるのだが、後処理でなんとかするより最初から無いほうが良いのは当然のことだ。
これまで、何故キャスターを寝かせていたのか? キャスターは直進安定性に効くからだ。これまでのマツダのクルマは、ターンイン姿勢を作るに際して、ダイアゴナル(斜め)ロールに依存していた。外側前輪に荷重を乗せて、早くヨー運動を起動することを意識していたわけだ。
ところが、ダイアゴナルロールで敏感に回頭を始めるセッティングにすると、曲がるつもりが無いときも、路面のアンジュレーションによって左右前輪の接地圧が変わっただけで回頭が始まってしまうので、直進時にチョロチョロしがちになる。それへの対応としてキャスターを寝かせることで、直進安定性を確保しようとしていたのがこれまでのセッティングだ。
シャシーのスポーツ性を打ち出すためにはそういう設定もあり得るが、一方で、本当に人間中心で、肉体の延長のように無意識に使える道具としてクルマを定義しようとすると、それは過剰演出ということになる。
車両アクションの派手さがなくなった分、これ見よがしな感じがなくなって、より自然になったという言い方もできる。ロードスターの990Sでもそうだが、今マツダはそのあたりのアプローチを変えてきている。アシの仕立ての考え方が変わったのだ。
もちろんこれはキャスターだけの成果ではなく、あらゆる部分の細かいエンジニアリングの積み重ねによるもので、先に述べたボディ剛性の分布と連続性やKPCの効果なども含む。
ターンインが派手でなくなったことから、その先の旋回姿勢、つまり並行ロールへの移行もより連続性を持ってスムーズにつながることになった。
デメリットとしては、ターンインでも旋回時でも、ブレーキを舐めてフロント荷重を高めることで、旋回円を小さくするような小技での車両姿勢制御があまり通用しなくなった。そこは好みが出るかもしれないが、より舵角を増やすなど、曲げるためのオプションは他にもあるので、ロジカルにはこの仕立ての方が正しいと思う。筆者も含め、自分の中にある「やんちゃさ」みたいなものが、もっとビビッドな姿勢変化を求めて止まないタイプのドライバーにはちと気の毒な話ではあるけれど。
その結果、中高速のコーナーが、その先で巻き込んでいるようなケースでブレーキを使おうとすると、鼻先がインに切れ込んで行くというより、割と早めにリアがブレークする。スピン速度は速くはないので、そこそこの腕さえあればカウンターが間に合い、特に危ない思いをすることなくコーナーを脱出できる。ここでキャスターアクションの排除による「保舵力一定」が効いて、コントロール性が上がっている。今回はテストコースの実験であって、間違っても公道でそれをやれという話ではない。やむを得ず危機回避モードになった時の車両の反応をテストしたという意味である。
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