漫画家・赤松健に聞く海賊版ビジネスの課題 電子化がもたらす若手作家への功罪とは:漫画村問題を語る(2/4 ページ)
「漫画村」閉鎖以後も、海賊版サイトが完全になくなったわけではない。「漫画村」以後の漫画海賊版ビジネスの現状や、電子化に代表される漫画業界の課題を、日本漫画家協会で常務理事を務める漫画家の赤松健さん聞いた
静止画だと違法にはならない
――このリーチサイト違法化によって、漫画海賊版の現状は改善したのでしょうか。
その漫画の違法データをまるまるダウンロードするのは駄目になったんですけど、ブラウザで閲覧するだけのものはまだ違法になっていない状況です。ブラウザでユーザーが違法アップロードしたデータを読むのは、キャッシュは残りますけど、基本的にダウンロードはしていないわけです。つまりこれは合法なんですよ。もちろんデータをアップロードした人は有罪ですけど、見てしまったという人を罰することは難しいのです。
またダウンロードの場合、漫画ではなく、動画とか音楽だと違法なんですよね。海賊版だと知りながらダウンロードすれば、著作権法違反になります。でも、静止画だと違法にはならないのです。
――動画や音楽と違って、静止画の場合は勝手にブラウザに表示されることもあり得ますよね。
20年の著作権法改正が議論されていた時に文化庁が出してきた案は、この静止画の表示や、ブラウザのスクリーンショットを取るのも違法になるというものでした。他にも、誰かが描いた二次創作物の絵をファンが保存するのもダメという非常に厳しいものだったんです。ただ、さすがにこれだと国民生活が成り立ちません。
この法案は通称「スクリーンショット違法化」とも言われていましたが、これに対して漫画家が、「われわれ漫画家を守るために、そんなに厳しい法律を作るのはやめてほしい」と主張したんですよ。そしたら国会議員はびっくりしたそうなんですね。
その後この法案は、総務会から部会に戻す形で再度審議されることになり、後に私も議論に加わりました。結果、海賊版はたたく一方、二次創作の絵をダウンロードするぐらいならば許容する形にして、今の著作権法改正に至ります。
――でも結果的には、ブラウザで表示する抜け道は残ってしまっているわけですよね。
ストリーミング型のブラウザ閲覧方式のサイトは規制から漏れています。でも、これを規制すると、実は海賊版以外のものも見られなくなってしまうんです。だからそこは難しいところなんですけど、代わりに私は漫画村の広告代理店訴訟というのをやったんですよ。海賊版サイトに広告を出していた広告代理店を訴えた訴訟なのですが、広告が出せなくなってしまえば収益が断たれるわけですから、いわば“兵糧攻め”の考え方ですね。
ちなみに、政府にはサイトブロッキングといって、海賊版サイトにユーザーがアクセスしようとすると、プロバイダーがそれを検知し、ブロックしてアクセスできなくなるようにしたいという思惑があるようなんです。中国では既にやっているんですが、これは日本だと大きな問題があります。プロバイダーがユーザーの動きを監視するわけですから、「通信の秘密」を侵害してしまうんです。これはちょっとやり過ぎだと考えています。なので、漫画家協会としてはサイトブロッキングまでは求めていないのです。こういうのは政治利用されるリスクもありますから。
――ただ、こういう状態は、いたちごっちになってしまう部分もあると思います。
同じデータである電子書籍との区別をつけるために、「ABJマーク」という公式な許諾をつけています。この「ABJマーク」がないデータは海賊版です。あと、「漫画村」をきっかけに多くのメディアが海賊版被害について取り上げてくれました。
これによって、多くの読者の意識の中で、「海賊版を読むと作家が生活できなくなっちゃって次回作を作れないよね。やっぱ正規版を読まなくちゃね」という理解がかなり進んできたように思います。このように、人々の意識が変わっていくことも大事だと思います。
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