クルマのパワーとトルクの関係: 高根英幸 「クルマのミライ」(4/4 ページ)
実際に走りを左右するのはトルク、それも最大トルクではなく、それを含めたトルク特性こそが加速力と加速フィールを決める。
SI単位への統一が進まないことも要因か
パワーの単位として、未だにpsという前時代的な単位を並記していることも、ユーザーの理解が進んでいない証だろう。日本の計量法での表記は大文字のPSなのだが、実際には自動車メディアでは依然として小文字のpsを使い続けているところも多く、kWよりも優先されている印象がある。
国際的に統一されたSI単位のkWを使うように計量法で定められてから、もう20年も経過している。なのに未だにPSの方が重視されるのは、ドライバーの代替わりが進まず、高齢化していく傾向が強いからではないか。自動車メーカーもkWとPSを並記しているのは、その方がユーザーに性能をイメージしてもらいやすいからだろう。
実際にはエンジンパワー(つまりトルクとエンジン回転数による仕事量だ)は、変速機とファイナルギアによって回転数とトルクが変換されて、駆動輪へと伝わることになる。発進時には回転数を減らす代わりにトルクが増幅されて、力強い発進加速が得られ、慣性力が付けば加速力は減らしていけるので、高いギア(減速比の低いギア)へとシフトして回転数を高め、エンジン回転数を下げて車速を高めていけるようになるのだ。
つまり変速機の能力によって実際の駆動トルクは変化しているのである。回転数と引き換えに駆動トルクを増減するのが変速機の主な役割だ。
モーターは磁石の吸着と反発を利用してトルクを発生させているため、静止した状態からトルクを発生することができる。しかも静止状態からの加速は、慣性力がないので加速は強烈に感じる。
モーターの場合は回ろうという瞬間から最大のトルクを発生することができて、慣性力が付けば加速による負荷は減少するので消費電力は小さくなる。エンジンのように燃費のために回転数を落とす必要がないから、変速機は基本的に必要ないのである。
最終的には車重やトラクション性能など、加速力に影響を与える要素は車体や環境によるものもあるが、駆動輪を回そうという力はトルクであり、速度が高まるほど空気抵抗が増えて加速を阻むようになる。空気の壁を突き破って進む力もトルクであり、クルマの最高速度とはトルクとそのエンジン回転数が、車体の抵抗と均衡した状態に達したものなのである。
筆者プロフィール:高根英幸
芝浦工業大学機械工学部卒。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。これまで自動車雑誌数誌でメインライターを務め、テスターとして公道やサーキットでの試乗、レース参戦を経験。現在は日経Automotive、モーターファンイラストレーテッド、クラシックミニマガジンなど自動車雑誌のほか、Web媒体ではベストカーWeb、日経X TECH、ITmediaビジネスオンライン、ビジネス+IT、MONOist、Responseなどに寄稿中。近著に「ロードバイクの素材と構造の進化(グランプリ出版刊)、「エコカー技術の最前線」(SBクリエイティブ社刊)、「メカニズム基礎講座パワートレーン編」(日経BP社刊)などがある。企業向けやシニア向けのドライバー研修事業を行う「ショーファーデプト」でチーフインストラクターも務める。
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