中国格安EV「宏光MINI」は自動車業界のiPhone? 100万円以下のソックリEV続々登場:浦上早苗「中国式ニューエコノミー」(2/5 ページ)
日本では日産自動車が軽電気自動車『SAKURA』を発売し、格安EVに期待が高まっている。本連載で1年前に紹介した世界で一番売れているEV「宏光MINI」は、累計販売台数73万台を達成。中国では二匹目のドジョウを狙い、100万円以下のEVが次々登場し、早くも明暗が分かれつつある。
地方在住者の「足」として快走
20年7月に発売された通用五菱汽車の宏光MINI。テスラや蔚来汽車(NIO)の10分の1の価格で注目を集め、発売翌月にはEV販売台数で中国首位に立った。その後、現在まで中国EV市場でトップを維持し、22年3月は単月で過去3番目に多い4万2566台を販売した。
新型コロナウイルスの感染拡大によって、上海が封鎖されるなど多くの地域で行動制限が課された4月は失速したもの、5月は2万9169台を売り上げ、いち早く復調している。
宏光MINIは価格を抑えた分、性能も割り切っている。日本の軽自動車より小さな車体で航続距離は120〜170キロメートル。自動車を使っていた層ではなく、オートバイや電動三輪車で子どもの送り迎えやスーパーに買い物に行っていた地方のユーザーがメインターゲットだ。
22年1-4月に同車種が売れた都市のランキングを見ても、トップ3は柳州市(広西チワン族自治区)、仏山市(広東省)、南寧市(広西チワン族自治区)と、「地方のまずまずの規模の都市」が占める。
宏光MINIがヒットした当初は、「価格なりの品質」「おもちゃ」「技術的には見るものはない」という声も少なくなかった。だが、価格破壊によってEVの購入者層を大きく広げ、新たなマーケットを創造した功績は大きい。マーケットが創造、拡大された結果、昨年後半以降に格安EV分野への大手の参入が相次いでいる。
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