「KDDIの会見、やらなくてよかったんじゃね」問題 どう考えるべきか:スピン経済の歩き方(7/7 ページ)
KDDIの大規模な通信障害を受けて、興味深い問題が持ち上がっている。原因がよく分かっていない状況の中で、「会見を開く必要はあったのか」という指摘がある一方で、「早ければ早いに越したことはない」という意見もある。果たして、どちらが“正しい”対応なのだろうか。
社会の混乱を抑えるためにも
このように世間の「ムード」は、ちょっとしたことでガラリと変わる。だからこそ、企業危機管理というのは、「ムード」を味方につけることが大事になる。そこで最も有効なのが、実は企業トップによる会見なのだ。
正確な情報を迅速に伝える会見はもちろん大切だが、その前に社会に「信用できそう」「安心した」という心証を与えなくてはいけない。それは実は危機発生時、社長がやるべきもっとも大切な仕事のひとつなのだ。
そういう意味では今回、高橋社長の会見は「成功」だったのかもしれない。
「KDDIの会見、やらなくてよかったんじゃね」という判断は、事態の収拾と原因究明に重きを置く通信業界的には「正しい」と言える。しかし、企業危機管理は、自分たちが「正しい」と思うことだけをやればいい、というものではない。
特に事故や災害のときは、現場の対応をしっかりやっても、人々の不安や混乱を抑えなくては社会がパニックに陥って、風評被害などを拡大させる。福島第一原発事故などはその典型例だ。
今回のケースを参考に、企業の危機管理にあたる人たちは、ぜひとも「社会のムード」というものにも着目していただきたい。
窪田順生氏のプロフィール:
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
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