「KDDIの会見、やらなくてよかったんじゃね」問題 どう考えるべきか:スピン経済の歩き方(6/7 ページ)
KDDIの大規模な通信障害を受けて、興味深い問題が持ち上がっている。原因がよく分かっていない状況の中で、「会見を開く必要はあったのか」という指摘がある一方で、「早ければ早いに越したことはない」という意見もある。果たして、どちらが“正しい”対応なのだろうか。
もし会見を開かなかったら
もうずいぶん昔の話だが、ある大企業の工場が火災を起こしたことがある。幸い死者はでなかったが、化学薬品を扱っている工場だったので、近隣住民の間に不安が高まっていた。工場としては、マスコミの問い合わせに対して、「消火活動などを優先しているので事態が収集したら会見を開く」と説明、広報車などで近所を巡回させて、火災現場に近づかないようにと注意喚起をするとともに、体調不良を訴える人がいたら連絡するように呼びかけた。
そんな中、この会社の関係者から、今後のマスコミ対応をどうすべきかという相談が寄せられ、筆者は住民の不安を解消するため、消火活動に区切りがついたら、なるべく早く会見を催すべきだと進言した。
だが、その案は却下された。まだ火元や原因も特定できていないし、これから現場検証など行われるのだから、会見を催しても説明できることはほとんどない。謝罪コメントに関しても、Webサイトやマスコミを通じて既に言っている。急いで会見をしなくていけない理由が見当たらないという。
そこに加えて、懇意の業界紙記者からのアドバイスもあったという。これまで人が亡くなっていないような火災で、迅速に会見など催しているケースは少ない。火災の原因を特定して、事業への損害額や再発防止策などをしっかりとまとめてからの会見のほうが、メディア的には「価値」があるという。
こんな意見がメディアから聞こえてきている中で、社長を会見の場などに出すわけにはいかないというわけだ。筆者は「そう決められたのならば、それでいいんじゃないですか」とだけ答えて、その後は何も関わっていないのだが、数日後にその会社は「炎上」してしまう。地元の新聞とテレビ局が「火災から3日も経つのに会見をしない」などと批判を始めたのである。
なぜこんなことが起きたのかというと、火災が落ち着いたことで、住民の間から「被害」や「不安」、さらに企業側の対応への「不満」を口にする人が現れたことで、「ムード」がガラリと変わったからだ。
火災当初、マスコミは会見を催していないことなどまったく問題視をしてなかったのだが、鎮火してから、マスコミに喉(のど)の痛みなどを訴える声が寄せられた。このような被害が発覚したことを受けてスタンスをコロっと変えて、「なぜすぐに会見を開かなかった」と糾弾を始めたというわけだ。
なんとも不条理だと感じるだろう。しかし、もし今回のKDDIの通信障害のせいで、119番通報できずに亡くなった人がいたなんてことが分かったら、どんなことになるか想像していただきたい。そこでもしKDDIが、通信業界のこれまでの慣例に従って原因究明まで会見していなかったら――。「なぜすぐに会見を催してもっと注意喚起しなかった、人殺し!」などと事実が発覚した途端、すさまじいバッシングが始まった恐れもあったのだ。
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