悪質クレーマーは「排除の対象」と判断を――乗客怒鳴ったJR駅員の対応、弁護士はどう見る?:身勝手な客とどう対峙すべきか(2/3 ページ)
JR山手線の渋谷駅で、線路に財布を落とした男性が非常停止ボタンを押し、駅係員が激高する様子を映した動画がSNSで拡散し、波紋を呼んだ。身勝手な行動を取る利用客に対して、企業はどう向き合うべきなのか。
「言葉遣いは適切ではありませんでした」
財布を落としたという理由で男性が押した非常停止ボタン。これの是非について、JR東の担当者は、以下のように説明する。
「お客さまには安全な場所に移動・退避していただき、駅係員が拾うことを説明していた中での(お客さまの)ボタンの扱いは、適切な扱いではなかったと考えております。今回は、すでに駅係員が現地に駆けつけていたことから、列車の運行に支障するかどうか、列車非常停止ボタンを扱うかどうかについては駅係員の判断にゆだねていただければ良かったかと思います」
同社は公式Webサイトで、非常停止ボタンの使い方について説明している。ホーム上から乗客が転落しそうな場合や、乗客が列車と接触しそうな場合など、「危険と感じた場合はボタンを押して係員に知らせてください」としている。
人以外にも、落とした物が線路の真上に落ちたり、大きな物が落ちたりして運行に支障や危険があると感じた場合は、「非常停止ボタンを躊躇(ちゅうちょ)なく押していただいて構いません」と担当者は話す。
他方で、ボタンを押す必要性についてはケースバイケースで判断が難しい場合も多いといい、担当者は「駅係員が近くにいる場合にはまず駅係員に申告していただきたいです」とも付け加える。
拡散した動画には、耳をつんざくような駅係員の激しい口調と、「何事だろう」と心配そうに様子をうかがう周囲の乗客の姿も映し出されていた。当時の駅係員の対応や口調について、JR東は以下のように話す。
「危ない場合には、強く制止するという対応は致しますし、危険な行為には毅然と対応する必要もございます。しかし今回、言葉遣いにつきましては適切ではありませんでした。『安全を守る』という強い使命感があったものの、行き過ぎた言葉遣いがあったことについてはおわび申し上げます。社員教育などを通じて、再発防止に取り組んで参ります」
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