「父の敵討ち」――魚に紫外線あてアニサキス検出 大手スーパーも導入する板金加工メーカーの技術とは?:世のためになるものづくりを
サバやアジなどに寄生するアニサキスによる食中毒被害が後を絶たない。そんな中、和歌山県紀の川市の板金加工メーカー、エムテックが、魚の切り身に紫外線を当ててアニサキスを検出するハンディ型装置を開発した。
サバやアジなどに寄生するアニサキスによる食中毒被害が後を絶たない。2018年以降、食中毒の原因別で4年連続トップを占め、直近では元AKB48のメンバーでタレントの板野友美さんが被害に遭い話題になった。そんな中、和歌山県紀の川市の板金加工メーカー、エムテックが、魚の切り身に紫外線を当ててアニサキスを検出するハンディ型装置を開発した。食中毒で苦しむ人を一人でも減らしたい――との思いがあるという。
同社が6月に発売したのは、「ワームチェッカー」という商品。暗所で、魚の切り身に装置をかざして紫外線を照射すると、アニサキスが青い光を発する「キャンドリング法」という技術を用いて作製した。価格は2万円で、飲食店やスーパーマーケットなどへの普及を目指している。
「親父が30年前にアニサキスにやられたんです」
こう話すのは、エムテックの初代社長で、現在は開発室長の根来昌平さん(75)。現在は、内視鏡を使って簡単にアニサキスを除去できるが、当時は今ほど内視鏡の技術が進んでおらず、根来さんの父親は開腹手術を受けて約1週間の入院生活を送ったという。「その意味では、開発で言わば父の敵討ちをしたわけです」と根来さんは話す。
同社は16年に、水産会社からの依頼を受けてアニサキスの発見を補助する装置のOEM(相手先ブランドによる生産)供給を始めた。翌年には、操作性をより高めた「アニサキスウォッチャー」を開発。同商品は和歌山県が実施する、優れた技術や製品を登録する「1社1元気技術」に採用されるなど、高い評価を得た。
アニサキスウォッチャーは改良を重ね、今年に入ってからは大手スーパーが関東の店舗に100台導入するなど、販路を広げてきた。
一方で、これまで開発してきた商品はいずれも据え置きタイプ。調理場に「置き場所がない」という意見も寄せられていた。そうした意見に応え、新たに開発したのが、今回のハンディタイプの装置だった。コンパクトなハンディタイプであれば、調理場の広さを問わず使うことができる。
1990年創業の同社はもともと、ステンレスなどの板金加工に強みを持つ。コロナ禍では足踏み式の消毒液スタンドを作製・販売するなど、時代や顧客の要望に応じたものづくりを展開してきた。根来さんは自身を「ものづくりバカ」と表現し、4年前に社長を長男の繁さん(48)に引き継いだ後も、開発室長として日々、商品のアイデアを練っている。
昨年末以降、中国のゼロコロナ政策によるロックダウン(都市閉鎖)の影響で、部品調達が遅れるなど、厳しい局面もあった。しかし、「世の中のためになるものづくりを続けたい」という思いが原動力になっているという。
「飲食店や小売店にハンディタイプの装置が普及し、食中毒で消費者を悩ますことなく安全な商売をしてもらえたらというのが私の思い」と根来さんは語った。
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