転売ヤーから2万円規制まで、スマホ販売は課題だらけーー競争ルール検証WG報告書の中身:房野麻子の「モバイルチェック」(3/4 ページ)
総務省の「競争ルールの検証に関するWG」は通信料金と端末代金の完全分離、行き過ぎた囲い込みの禁止などを定めた改正電気通信事業法の影響を、評価・検証している。課題は山積しており、解決策も不透明だ。
端末の対応周波数についてはルール化せず
MNOが端末メーカーから調達して販売する端末、いわゆるキャリア端末の中には、他のMNOに割り当てられた周波数に対応していないものがある。
他のMNOに乗り換えた際に端末を継続して利用しようとしても、エリアが狭くなったり、通信速度が低下したりする場合がある。これがユーザーにとって乗り換えの障壁となるとの指摘があり、ワーキンググループで対応が検討された。
しかし報告書では、「現時点で拙速にルール化・標準化を推し進めることは適当ではない」としている。
その理由として、こうした問題に直面したことのあるユーザーが限定的であること。また、メーカー直販端末については、各MNOに割り当てられた周波数に対応しており、国内のどのMNOのネットワークにも対応できる端末が存在していることなどがある。
むしろ、携帯電話の対応周波数の範囲を広げることで、開発費、部材費、認証費などによって製造コストが増加する可能性がある。それも、一般的に低価格帯端末の方が影響が大きく、高価格帯端末は複数周波数に対応した部品を活用することが多いため、コスト増加要因は限定的だという。対応周波数の範囲を広げることをルール化してしまうと、低価格帯の端末ニーズに沿えなくなる、利用者の選択肢を奪うことになるとの懸念が示された。
また、複数の端末メーカーからは、ルール化しなくても、ユーザーのニーズが高まれば、自然と多くの周波数に対応した端末を開発するようになるという意見も出ている。そのため当面は端末メーカーの自主性に任せ、「可能な範囲で複数のMNOに対応した端末を開発・製造することを促していく」という提言に落ち着いたようだ。
もちろん、MNOやメーカーは関連情報を充実させるとともに、ユーザーが端末を購入する際に、できるだけ分かりやすい形で情報を提供することが適当とされている。
「転売ヤー」対策について
端末の大幅な割引販売が行われている際に、通信サービスを利用することなく転売し、利益を得る、いわゆる「転売ヤー」の問題についてもまとめられている。
転売ヤーが跋扈(ばっこ)することで、人気端末の買い占め、販売代理店スタッフの心理的な負担、転売の利益が反社会的な目的に利用される懸念、MNPの「踏み台」とされるMVNOの業績への影響などが問題とされている。
ただ最近では、MNOや販売代理店の対策が効果を発揮してきているようだ。購入できる端末を1人1台にしたり、「一括○円」ではなく、端末購入サポートプログラムを組み合わせた「実質○円」という形で販売したり、会員情報に基づく購入履歴を確認したりといった対策が行われている。
報告書では、転売ヤー対策のために端末単体販売拒否が行われてはならないとしており、今後も実効性のある転売ヤー対策を実施することが重要になる。
なお、MNPによるユーザー獲得競争が激化しており、販売の現場では、自社ユーザーを一度他社に乗り換えさせた上で再度自社に乗り換えさせる、あるいは、複数キャリアの端末を扱う販売店で、ユーザーを事業者間で回すような形で乗り換えさせるなど、MNPの獲得件数を不適切な形で増やしている例も指摘されている。「『無意味な乗換え』を生まないような対策についても併せて検討・報告を求めることが適当」とされている。
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