ノジマやYKKは定年撤廃 シニアの戦力化が企業にもたらす恩恵とは?:シニアは本当に扱いにくい?(4/4 ページ)
少子高齢化が進む日本社会で、企業のシニア層の就業促進は待ったなしの課題となっている。シニアは「扱いにくい」とのイメージがひも付いているが、経験豊かなシニア層の雇用は企業にメリットももたらす。
3.若手・ミドル社員に、生涯活躍できる未来像を示すことができる
ミドル層の社員は、近い将来シニア層となる世代です。そのため、シニア層が活躍している姿はミドル層にとってすぐに自分自身にも訪れる近未来の姿として映ります。また、若手層もいずれはシニアになります。シニアになってからも重宝され、いきいきと働き続けられる未来像を示すことは、シニア層だけでなく、若手・ミドル層から見た会社の魅力を高めることにもつながります。
シニア層の雇用を阻む「定年制度」
紹介した報道にもあったように、70歳までの就業機会確保措置を実施している会社は全体の4分の1程度です。しかし、景気変動などで短期的な労働力需要の増減は起きたとしても、人口比率の変化に抗うことはできません。遅かれ早かれ、シニア層の戦力化は大半の会社が取り組まなければならない重要課題になってくるはずです。
ところが、いざシニア層の戦力化へと舵を切った際に、大きなネックとなってしまうと考えられるシステムがあります。定年制度です。大抵の会社は、法律上の下限である60歳を定年年齢にしています。
今後もシニア層の人口比率は増え続けますが、60歳を迎えたシニア層が皆働き続けたいと考える訳ではありません。繰上げれば老齢年金が取得でき、貯蓄など相応の財産も所有していれば、働かないという選択ができる年齢層です。一方、中には定年年齢を迎えても生活のために働かざるを得ないケースがありますが、それは肯定されるべき状況ではなく、解決しなければならない社会課題です。働き続けざるを得ない状況に置かれているシニア層をターゲットにし、弱みにつけ込むような形で戦力化を図ることは望ましくありません。
つまりシニア層を戦力化するには、働かない選択も可能な人たちに対し、仕事に対する誇りややりがい、生きがいが感じられ、長年の仕事経験によって培われてきた労働意欲を呼び起こすような環境を会社内に整える必要があるということです。その際、会社側に求められるのは、若手に優しくシニアに厳しい姿勢とは対極にある、シニア層に力を貸してもらおうとする姿勢です。しかしながら、定年制度を導入している限り、「当社は年齢条件のみで社員を一律に戦力外と見なす会社です」というメッセージをまざまざと突きつけることになってしまいます。
定年制度がシニア層に突きつけているメッセージは、既に採用難に苦しんでいる会社はもちろん、やがてシニア層の戦力化に真摯に向き合わなければならなくなる大半の会社が抱えている大きな矛盾です。矛盾を解消するには、定年制度を撤廃する必要があります。家電量販店のノジマやファスニング事業を展開するYKKグループなど、既に定年制度廃止に踏み切った会社が現れてきているのは当然の流れです。
厚生労働省が公表している21年高年齢者雇用状況等報告によると、定年制度を廃止している会社は4.0%のみ。ということはすなわち、今ほとんどの会社の目の前に、いずれ取り組まなくてはならないシニア層戦力化で先んじるチャンスが広がっている状態なのです。
著者プロフィール・川上敬太郎(かわかみけいたろう)
ワークスタイル研究家。1973年三重県津市出身。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業の事業責任者を経て転職。業界専門誌『月刊人材ビジネス』営業推進部部長 兼 編集委員、広報・マーケティング・経営企画・人事部門等の役員・管理職、調査機関『しゅふJOB総合研究所』所長、厚生労働省委託事業検討会委員等を務める。雇用労働分野に20年以上携わり、仕事と家庭の両立を希望する“働く主婦・主夫層”の声のべ4万人以上を調査したレポートは200本を超える。NHK「あさイチ」他メディア出演多数。
現在は、『人材サービスの公益的発展を考える会』主宰、『ヒトラボ』編集長、しゅふJOB総研 研究顧問、すばる審査評価機構株式会社 非常勤監査役、JCAST会社ウォッチ解説者の他、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等の活動に従事。日本労務学会員。男女の双子を含む4児の父で兼業主夫。
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