JR東、ローカル35路線すべての区間で赤字 収支を初公表したワケは?:国も見直し提言(2/2 ページ)
R東日本は7月28日、利用客が極めて少ないローカル線を対象に、区間ごとの収支を初めて公表した。公表されたのは35路線66区間で、すべてが赤字だった。人口減少や近年の新型コロナウイルスの流行で鉄道利用者が激減し、存続が危ぶまれている路線も数多い。
これまで鉄道各社は、新幹線や特急など都市圏の高収益路線の黒字で、地方のローカル線の赤字を穴埋めしてきた。しかし、コロナ禍に伴うテレワークが定着したことにより、都市部でも鉄道利用者が減少。JR東や西は22年3月期まで2期連続で最終赤字となった。
野村総合研究所が3月に公表した試算によると、人口減少やWeb会議の普及に伴い、2040年度時点のJR各社の収益力は19年度比で、JR四国が30%減、JR北海道は22%減、JR西は19%減――と低下する見通しだ。JR東も17%の低下が予想された。
こうした中、JR東の深澤祐二社長は5月10日の定例記者会見で、赤字路線の収支を公表する方針を明らかにし、今回の公表に至った。
国もローカル線見直しを提言 「路線廃止」も示唆
国も赤字が続くローカル線の見直しに動き出している。国土交通省は2月、持続可能な公共交通について考える検討会を設置し、5回におよぶ有識者会議を経て、7月25日に提言をまとめ公表した。
提言では、利用者減により危機的な状況にある路線について、鉄道事業者と沿線自治体が協働して対策を取るよう指摘した。より深刻な状況にある路線については、国が「特定線区再構築協議会」(仮称)を設置し、鉄道事業者と自治体間の協議が円滑に進むよう働きかける体制づくりも提言した。
両者の話し合いを通じて、路線を維持する場合は、「運賃・経費の適正化」と、「投資を行って鉄道の徹底的な活用と競争力の回復に努め」ることが必要だと指摘した。
一方で、バス高速輸送システム(BRT)などへの転換も提言。「鉄道と同等またはそれ以上の利便性と持続可能性を確保するなど、人口減少時代にふさわしい地域公共交通に再構築」するよう促しており、路線廃止の可能性もあることを示唆した。
提言では、「アフターコロナにおいてもコロナ以前の利用者数まで回復することは見通せない」としており、鉄道事業の構造そのものを変化させる必要があると指摘している。
国の提言に続き、JR東の初となる収支公表。今後、鉄道事業者と自治体による赤字路線の維持費用の分担や、路線廃止などに向けた議論が活発化していきそうだ。
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