Cookie制限で、広告効果は目に見えて悪化──それでも「最大40%」改善できたのはなぜ?:脱・Cookie頼みのWebマーケ(2/2 ページ)
デジタルマーケティングの世界は今、大きな曲がり角に差し掛かっている。50以上のアパレルブランドを運営するTSIホールディングスも、Cookie制限の強化に伴い明らかに売り上げやCVRなどが悪化していたというが、各種指標を「最大40%」改善できた。その取り組みとは?
特に、同社のWeb広告の出稿媒体として最も大きな割合を占めるInstagramの広告効果が目に見えて悪化しており、その対策は急務であった。加えて、21年4月にリリースが予定されていたiOS 14.5においてITPの大幅な強化が予定されており、より一層リターゲティング広告の精度や効果が低下する恐れがあった。
そこでInstagramおよびFacebookの運営元であるMeta社から提案を受けたのが、「コンバージョンAPI」の利用だった。これは広告のターゲット顧客に関する情報を、サードパーティーCookieなどの仕組みを使ってブラウザ経由でMeta社の広告サーバ(Facebook広告サーバ)へ受け渡すのではなく、広告主のサーバからAPI経由でFacebook広告サーバへと直接送信するもの。この仕組みを導入すれば、たとえサードパーティーCookieが使えなくなってもターゲット顧客情報を正確に広告配信に反映できる。
ただし同部でデータマネジメントセクション課長を務める竹山健司氏によれば、この仕組みを導入するにはかなり高いハードルを越える必要があったという。
「社内の各部署で、現在利用しているシステムに新たにコンバージョンAPIの処理を実装するにはかなりの時間と工数がかかると予想され、さらに送信用のデータをとりまとめるための手間もかなりかかると考えられました。その時点で既に21年4月のiOS 14.5リリースまで半年を切っており、それまでに各部署との調整と開発作業を終えるのは、とても現実的とは言えませんでした」
どうやって、各種指標を大幅に改善させたのか
そんな折、既に導入を進めていたTreasure Data CDPが、近くコンバージョンAPI経由でFacebook広告サーバと連携できる機能をリリースするとの情報を得た。当時はまだベータ版の段階だったが、低コスト・短期間でコンバージョンAPIを導入・運用できる方法を模索していた同社にとっては、まさに「渡りに船」であった。
その段階で既にTreasure Data CDPのデータベース上には必要十分な顧客情報を蓄積していたため、あとはそこから必要な情報を抽出して、コンバージョンAPIと連携するためのコネクターモジュールを通じてFacebook広告サーバに送り込むだけで済む。
「コンバージョンAPIのコネクターを通じてターゲット顧客情報をFacebook広告サーバに受け渡す仕組みを急遽(きょ)導入することにしました。作業自体はわずか2週間程度で完了し、コスト面でもこれまでと同じ月額利用料金で導入できました」(竹山氏)
こうして21年4月、コンバージョンAPIの利用を開始。その効果は早々に表れ、コンバージョンAPIの導入前と比較して売り上げやROAS、CV、クリック数、広告表示数などの指標が、項目によっては最大で40%ほど改善したという。また、これまでブラウザ経由ではFacebook側に受け渡すことができなかった詳細な顧客情報を、新たにAPI経由で直接送り込めるようになった。
「LTV(ライフタイムバリュー)が高いと推測されるユーザーのリストを機械学習を用いて抽出して、それをトレジャーデータCDPを通じてFacebook側に送信することで、より精度の高いターゲティング広告が可能になりました。こうしたデータ連携を手動のアップロードで行うと膨大な手間が掛かるのですが、CDP経由で簡単に行えるようになったのはとても大きいですね」(上石氏)
なお同社では現在、来るべくクッキーレス時代に備えてFacebook広告だけでなく、他の媒体に出稿するWeb広告のターゲティングや効果測定も、従来のサードパーティーCookieを用いた方法からコンバージョンAPIのような他の手段を用いた方法へと順次移行していく予定だという。
「既にGoogle広告に関してはサードパーティーCookieを介さない仕組みを導入していますし、他の媒体に関しても今後はコンバージョンAPIのようなインタフェースが利用できるようになってくると思います。それらを利用するに当たっても今回のFacebook広告と同じく、CDPを通じて簡単に実装できると助かりますね。既にLINEに関しては近いうちにTreasure Data CDPを通じてコンバージョンAPIが利用できるようになるそうですから、今後もこうした連携機能がより一層充実されることを期待しています」(竹山氏)
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