セブン-イレブンも注力 いつでも約30分で欲しいものが届く「即配」に期待が集まるワケ:石角友愛とめぐる、米国リテール最前線(4/4 ページ)
コロナ禍で急激に需要が増えた宅配サービス。その中でも、最短で10分、平均30分以内という短時間のうちに注文した品を消費者へ届けるサービス「クイックコマース」が注目を集めている。通常のフードデリバリーとはどのように違うのか、どんな事業者が今後クイックコマースを制するのか――石角友愛氏が解説する。
(3)ギグワーカー活用か、ドライバーを囲い込むか
ウーバーイーツやドアダッシュなどのプラットフォーマータイプのアプリでは、通常ドライバーを従業員として扱わず、ギグワーカー(インターネットを使って単発の仕事を引き受ける労働者)としてネットワーク化しています。これには、より多くのエリアに多くのドライバーネットワークを持つことでネットワーク効果を生み出し、新規参入の障壁を高めるという狙いがあります。
しかし、近年のギグワーカーへの対応の問題、従業員として扱うべきだという動きなどの労務関連の規制強化から、プラットフォーマーが法的なリスクを抱えているのも事実です。
結果的に、リスク管理、労務管理、法務関連や政治家や自治体へのロビー活動のコストが高くなります。また、ギグワーカーの場合、複数のアプリを掛け持ちするのが一般的なため、クイックコマースのように「15分で配達してほしい」という顧客のピンポイントなニーズを実現するためには最適なモデルとは言えません。
そこで最近はドライバーを独自に採用して囲い込むクイックコマースも出てきています。
最短10分で配達 自社所属の配達員を駐在
例えば、クイックコマースサービスを日本で開始したOniGO(オニゴー)は、最短10分という配達速度で他社との差別化を図っています。この配達の速さを可能しているのが、配達員との契約方法や、配達専用店(ダークストア)の設置場所の工夫です。
OniGOは、ダークストアに自社所属の配達員を駐在させることで、商品の注文が入ったらすぐに出発できる環境を整えている点が特徴です。このため、他のデリバリー業者では一般的なフリーランスや個人事業主が配達するギグワーカーモデルは採用していません。
いつまでも収束の兆しが見えないコロナ禍で、デリバリーアプリやクイックコマースの需要は今後も伸び続けることが予想されます。一見同じサービスにも思える両者ですが、ランチやディナーなど予定が組みやすい注文の場合には従来のデリバリーアプリで対応できる一方で、おむつなど「今すぐないと困る」商品や、パーティの現場ですぐに消費する夜食やアルコール関連商品などにはクイックコマースが適しています。
とりわけ、クイックコマースは配達の即時性が競合優位性に直結するため、独自のドライバーの囲い込みやタイムリーな倉庫管理、適切な需要予測を通じ、効果的に消費者の発注に備える必要性が従来のデリバリーサービス以上に高いと言えます。
不景気の煽りを受けて解雇の動きが進むテック業界ですが、コスト削減とは真逆の方向に進むクイックコマース業界の今後に注目したいと思います。
著者プロフィール:石角友愛(いしずみ・ともえ)
パロアルトインサイトCEO/AIビジネスデザイナー
2010年にハーバードビジネススクールでMBAを取得したのち、シリコンバレーのグーグル本社で多数のAI関連プロジェクトをシニアストラテジストとしてリード。その後HRテック・流通系AIベンチャーを経てパロアルトインサイトをシリコンバレーで起業。データサイエンティストのネットワークを構築し、日本企業に対して最新のAI戦略提案からAI開発まで一貫したAI支援を提供。AI人材育成のためのコンテンツ開発なども手掛け、順天堂大学大学院医学研究科データサイエンス学科客員教授(AI企業戦略)及び東京大学工学部アドバイザリー・ボードをはじめとして、京都府アート&テクノロジー・ヴィレッジ事業クリエイターを務めるなど幅広く活動している。また、毎日新聞「石角友愛のシリコンバレー通信」、ITメディア「石角友愛とめぐる、米国リテール最前線」など大手メディアでの寄稿連載を多く持ち、最新のIT業界に関する情報を発信している。「報道ステーション」「NHKクローズアップ現代+」などTV出演も多数。
著書に『いまこそ知りたいDX戦略』『いまこそ知りたいAIビジネス』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『経験ゼロから始めるAI時代の新キャリアデザイン』(KADOKAWA)、『才能の見つけ方 天才の育て方』(文藝春秋)など多数。
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