「氷河期の勝ち組」だったのに……40代“エリート課長”に迫る危機:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(1/3 ページ)
自分をエリートだと信じて疑わなかったサラリーマンが、社内の方針転換により出世のはしごを外されることがある。エリート意識や、能力主義への妄信が生む闇とは──?
本記事は、『THE HOPE 50歳はどこへ消えた? 半径3メートルの幸福論』(著・河合薫、プレジデント社)を一部抜粋し、ITmedia ビジネスオンライン編集部で編集の上、転載したものです。
エリートに迫る危機
エリート意識といってもいいかもしれません。自分は「できる人」の部類に入っていると思っていたんです。
私はこれまで、フィールドワークとして900人近いビジネスパーソンにインタビューをしてきた。勤務先も職業も役職も多種多様。年齢は40代、50代を中心に、下は18歳から上は95歳まで。目的は自分の研究活動やコラム、講演会などに現場の目線を生かすためで、現在も続けている。
冒頭の声はその中の一人、原田明夫さん(仮名、40代)だ。原田さんは、就職氷河期の厳しい就活戦線を乗り越え、大手化粧品会社に正社員として就職した。母校である都内の某私立大学の同級生の中には、就職浪人したり契約社員になったりした人も少なくなかったという。
いち早く内定をつかんだ原田さんは、「自分さえ頑張れば、時代は関係ない」と確信し、配属先の営業部でも仕事に没頭した。43歳の時には先輩を追い越して課長に昇進。順調にいけば、数年後には部長昇進が確実だった。
ところが、40代後半に差し掛かって直面した今回のコロナ禍で事態が急変。社内の不穏な動きに戸惑っているという。
先日、長年一緒にやってきた契約社員がいきなり契約を切られてしまいました。数カ月前に、「来年、正社員に推薦してもらえそう」と喜んでいたので驚きました。ところが、変化はそれだけじゃなかったんです。
国内だけでなく海外の支店もクローズすることが決まったんです。私も「そろそろかな」と期待していたポジションが空かない可能性が出てきてしまって。突然、社内の景色が変わり、自分が思い描いていたキャリアパスや積み上げてきた足場がことごとく壊れていくようで、なんかヤバいです。
私は、就職氷河期を経験しているので変な自信があって、仕事ができる、できないを判断していました。エリート意識といってもいいかもしれません。自分はできる人の類に入っていると信じていたし、上の世代のこともバカにしていました。でも今は、自分にも“魔の手”が伸びてくるんじゃないかと不安になる。その一方で、「自分には関係ない」と思う自分もいて……。
何をどうすればいいのか、さっぱり分からなくなってしまいました。
人間とは実に勝手な生き物で、実際に自分自身が“冷たい雨”に降られないと、水滴の本当の冷たさが分からない。その反面、自分に迫り来る不穏な空気を感じ取るセンサーも体内に組み込まれていて、この感度が高いほど最悪の事態を回避できる。
パラダイム──そう、原田さん自身はまだ気がついていなかったが、彼は「パラダイムの危機」に直面していたのだ。
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