「氷河期の勝ち組」だったのに……40代“エリート課長”に迫る危機:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(2/3 ページ)
自分をエリートだと信じて疑わなかったサラリーマンが、社内の方針転換により出世のはしごを外されることがある。エリート意識や、能力主義への妄信が生む闇とは──?
パラダイム・シフト
一般的にパラダイムとは、「ある時代や分野において支配的規範となるものの見方や捉え方」という意味で用いられる。『科学革命の構造』(原著初版1962年)の著者、科学史家のトーマス・クーンは、パラダイムの概念を科学の世界に持ち込み、「一般に認められた科学的業績で、一時期の間、専門家に対して問い方や答え方のモデルを与えるもの」と定義している。
ただし、パラダイムという用語自体は古くから使われていて、『国富論』で知られるアダム・スミスは、「世界を説明し、世界の動きを予測するための、共有された一連の仮説」と定義している。また、社会学ではロバート・K・マートンが組織や社会構造に焦点を当て、そのメカニズムを解明する用語として使っている。
さらに、編集者で社会心理学者のマリリン・ファーガソンは、「パラダイムは思考の枠組み」と定義したうえで、古いパラダイムを捨てない限り、新しいパラダイムを受け入れることはできないとした。
このように、パラダイムにはさまざまな定義があるが、私は「ある集団のメンバーが共通して持つ、ものごとの見方、信念、価値」と解釈している。つまり、全く同じものごとを見ても、集団によって受け止め方が異なるのだ。
例えば、課長である原田さんには「突然の出来事」に見える事態でも、経営者の側は「え、今ごろ気が付いたの? コロナ禍で突然方針転換したわけじゃないぞ」とあきれるであろう。あるいは出世街道をはずれ、会社の脇道を歩いてきた人たちなら、「ケッケッケ、あんたにも来るぞ〜、魔の手!」と笑うにちがいない。
本当は平等ではない「能力主義」
原田さんが属するのは、「メリトクラシー(meritocracy)=能力主義社会」が生んだエリート集団だといえる。メリトクラシーは、イギリス人経済学者・社会科学者のマイケル・ヤングによる造語で、階級や家柄ではなく、能力によって地位を手に入れることを可能にする社会を意味している。
能力主義自体は、必ずしも悪いことではない。しかし、資本主義社会における能力とは「他者より多く稼ぐこと」であり、「階層社会の上階に行く」ことだった。つまり、能力という一見して個人の資質と解釈できる力により、人の序列が決まる社会がメリトクラシーであり、勝者にはおごりを、敗者には屈辱をもたらした。
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