「もう100円でなくてもいいんだ」 セブン、スシロー、ダイソーで「脱100円」が進む背景:セブンの100円コーヒーも値上げ(3/4 ページ)
回転寿司、100円ショップ、コンビニで“脱100円”の動きが加速している。背景には原料高や、キャッシュレス決済の浸透などがある。「100円」という分かりやすいビジネスは廃れてしまうのか?
100円ショップのままでは利益が出ない?
100円ショップ業界は大創産業、セリア、キャンドゥ、ワッツの4社で約9000億の売り上げをあげています。その他も含めたらおよそ1兆円市場というのが100円ショップ市場です。
業界トップはダイソーを展開する大創産業。国内に3790店舗、300円ショップなどを252店舗、海外では25の国と地域に2281店舗を展開。トータルでは6300店舗以上というグローバル企業です。
セリアは業界2位ですが、高い利益率で知られている企業です。1店舗当たりの稼ぐ力もある100円ショップです。
キャンドゥは22年1月にイオングループ入りし、26年度の売り上げ1250億円、営業利益率5%を目標に拡大を目指しています。
ワッツは同業の音通エフ・リテールを21年にM&Aで取得し、独自路線で拡大を目指しています。
各社とも順調に業績を拡大してきました。しかし、コロナ禍に続く仕入れ原価の高騰や物流費の上昇は業績を直撃しそうです。大創産業はそもそも海外比率が高い企業ですので、比較的影響は小さいかもしれませんが、他3社は典型的な内需型企業です。この状況で100円ショップ業態を続けることはできるのでしょうか。
この3社の損益状況を見てみます。
キャンドゥとワッツの売上高は500億円以上ありますが、利益は10億円台です。営業利益率はそれぞれ1.3%、3.3%となっており、高いとはいえません。キャンドゥの当期利益率は0.3%とギリギリの状況です。
一方、セリアの売上高は2000億円以上ありますし、粗利率も43%と両社に比べて5%も高い数値です。販管費率も3社中もっとも低く、営業利益率は10.1%と業界ではトップクラスの利益率となっています。
ここで、セリアだけがなぜ100円ショップにこだわり、100円以外の商品を導入せずに経営ができるのかお分かりいただけるでしょう。
セリアは徹底してムダを省き、経費を抑えるとともに、43%という高い粗利率で経営しています。そのため、取引先からの値上げ要請があっても、ある程度は耐えられる経営体質になっているのです。
セリアの河合映治社長は100円ショップの魅力を次のように語ります。
「業界が伸びたのは単に安いからということではなく、値札を見ずに買い物ができるという特別な買い物体験がお客さまに支持されたから」(出所:日本経済新聞2022年7月8日付「『100均』の旗降ろさぬ セリア、顧客の支持に勝算」)
100円ショップには値札が必要ありません。全て100円だからです。いくつカゴに入れたのかさえ分かれば、合計金額が分かるという単純明快な商売です。
この100円ショップの存在意義を徹底的に考えてきた同社ならではの言葉といえるかもしれません。さすが、「100円ショップで100%のシェアをめざす」といっているだけのことはあります。
同社では自動発注システムにより、店頭の回転率を徹底的に高めています。これにより店頭の“鮮度”を保っています。セリアの店頭はいつも明るく、動きがあるのですが、その理由は商品回転率の高さにあるのです。
同店では1万9000アイテムという商品量がありながら、年間商品回転率6.2回転を維持しているのですから、データ分析による商品鮮度の維持に相当こだわっているのが分かります。
また、売れ筋を分析して定期的に商品の改廃を実施し、毎月3割程度の商品を入れ替えています。これは、コンビニ並みの入れ替えスピードです。
同時に利益率の高いメーカー商品を増やし、取引先180社との協業を強化し、絞り込まれた企業の商品を集中販売することで、高い粗利を維持しています。また、粗利率の低い食品の構成を減らすことでトータルの粗利確保を行っています。
このような数字に裏付けられた経営によって、同社は今のところ「100円」こだわることができているのです。
そのセリアも23年度の予想数値では、売り上げは伸びると予想しているものの、営業利益率は8%台に落ちると見ています。コロナ禍の巣ごもり需要が一巡するだけでなく、物価上昇のあおりなどを受けて消費者の財布のひもが固くなるとシビアに予測しています。
これまでのように100円で販売することにこだわり続けていくと、売り上げは伸びるかもしれませんが、原価高騰や経費アップを吸収するのは難しいと同社でも考えているということでしょう。
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