なぜAOKIは“うまみ”の少ない五輪のために、「危ない橋」を渡ったのか:スピン経済の歩き方(3/7 ページ)
紳士服大手AOKIの前会長・青木拡憲氏が贈賄疑惑を認め始めた、とマスコミ各社が報じた。それにしても、なぜAOKIは“うまみ”の少ない五輪ライセンス商品のために、「危ない橋」を渡ったのか。その背景にあるのは……。
五輪のスーツはビミョーな結果に
実際、高橋元理事に販売期間の延長を依頼したという「東京2020オリンピックエンブレムスーツ」も汚職をしたわりには、かなりビミョーな結果となっている。
AOKIでは19年8月から「東京2020オリンピックエンブレム ストレッチウォッシャブルスーツ」(3万9000円)などの”東京2020公式ライセンス商品”を発売しており、販売数は累計3万着を突破したという。特に盛り上がったのがやはり五輪本番だ。
『東京2020オリンピックエンブレムスーツの受注が高まっており、開催前と比較し、販売着数は約1.2倍と大変ご好評をいただいております』(21年7月29日プレスリリース)
ここだけ聞くと「汚職効果」があったように感じるだろうが、紳士服大手として真っ当に勝負をしているスーツと比べると、この「3万着」はかなり見劣りする。それは20年11月に発売以降、大ヒットをしている「パジャマスーツ」だ。
これはパジャマの快適さとスーツのフォーマルさを兼ね備えたセットアップスタイルで、8000円台で購入できるという手頃さもあって、22年春までに累計販売数は10万着を超えている。高額なオフィシャルサポーター料や高橋元理事に賄賂を払うカネがあるのなら、「パジャマスーツ」のような時代に合わせた新商品の開発に投資をしたほうがはるかに堅実だし、費用対効果があるように思えてしまうだろう。
「異業種参入組」の動きをみても、そのような結論にならざるを得ない。
例えば、18年3月から販売され人気を博しているスーツ型作業着「ワークウェアスーツ(WWS)」はコロナ禍でも支持されており、21年5月には前年同月比1000%という売り上げとなり、これまでの累計販売数は15万着を超えた。
また、ワークマンは21年2月に同社初のスーツ「SOLOTEX 使用リバーシブルワークスーツ」(上下セットで4800円)、3月に「高通気」で夏向きの「DotAir 使用リバーシブルワークスーツ」(同4800円)を15万着限定で生産したところ、ともに店舗入荷後に即完売している。
確かに、これらの機能性スーツよりも「東京2020オリンピックエンブレムスーツ」は高額だ。しかし、そのぶんだけ高額な五輪ライセンス料を払わないといけないし、高橋元理事に賄賂も払わないといけない。しかも、販売期間は決められている。
社会的信用を失墜させる恐れのある汚職で高価格帯のスーツを3万着売るよりも、マーケティングや素材開発に投資して、廉価なスーツを10万着売っていくほうがどう考えても経済的だ。なぜAOKIの経営陣は、そんな当たり前の判断ができなかったのか。
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