スーパー高校生の才能を生かせなかった、キャリア教育の悲劇:知られていない(1/3 ページ)
千葉大学が1998年に全国初で導入した「飛び入学」。高2で千葉大に進学できた方が、大学院修士課程まで進んだものの、現在トラックの運転手をしているということが何度か報道されました。
著者プロフィール:増沢隆太(ますざわ・りゅうた):
株式会社RMロンドンパートナーズ代表取締役。キャリアとコミュニケーションの専門家として、芸能人や政治家の謝罪会見などをコミュニケーションや危機管理の視点で、テレビ、ラジオ、新聞等において解説している。大学や企業でのキャリア開発やコミュニケーション講座を全国で展開中。著書「謝罪の作法」他多数。
全国初の飛び級入学で、高校2年で千葉大に入学したこの方は、ご自身が物理と数学には飛び抜けた能力を持ちながら、社会や国語が赤点レベルだったと回述しています。千葉大の制度は正にこんな学生のためにあるともいえます。八方丸く何でもできるオールラウンダーではなく、飛び抜けた才能とそれ以外という、極端に激しい能力差を抱えた者に最適な制度だといえます。
実際に学部での勉強に打ち込み、そのまま大学院修士課程まで進み、ある財団法人の研究職に就職したと言うことでした。ところが、初任給の手取りは15万ほど。非常勤講師などアルバイトもしたものの生活は苦しく、30才を過ぎて、きっぱりと研究の道をあきらめ、元々持っていた大型免許を生かしてトレーラーの運転手になったということです。
ご本人は大学の研究者に代表されるアカデミックポジションが上位、トラック運転手が下位ということでは全くなく、家族を養って人並みの生活を送れる現在のキャリアに納得しているということでした。
真のキャリア教育・指導が機能できたら
私はこの方は実にスマートな頭脳と感覚をお持ちであり、現在のキャリアについてもご自分なりの納得感を得ていると感じます。一方で、真のキャリア教育が機能できていたら、日本という国にとって、一人の優秀なアカデミア人材を得られたかもしれないという残念さもあります。
私は長年大学や大学院でキャリア教育を行ってきました。残念ながら大学院生のキャリアの現実については、世間一般においてほぼ何も知られていません。それだけに専門的なキャリア指導・支援ができたなら、こうしたキャリア選択において、もっとその選択肢を広げられた可能性があります。
ご本人の意思とは別に、もし研究をキャリアにしたいと考えたのであれば、修士課程修了での財団法人就職はキャリアの可能性をきわめて狭めてしまう「危険な選択」の可能性があります。そのことを指導できるのが真のキャリア教育です。物理学の研究であれば、絶対に博士後期課程に進学すべきだし、学位をもって活動すれば、きわめて難関と言われるアカデミックポジションを得る可能性も高まります。
どうやって博士後期課程に進学するのか、学振が取れそうか、さまざまな学内外の資金の可能性など情報収集と検証によって、キャリア実現は可能になるのです。
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