運慶からスカジャンまで 横須賀美術館が仕掛けた「市内との相互誘客戦略」:運慶展+特別展「特集:井上文太 Inspirations」(3/5 ページ)
「運慶 鎌倉幕府と三浦一族」が約2カ月間で、5万人の来場者を集めた横須賀美術館。好調の背景には、「美術館を街づくりに生かしていく」というコンセプトを打ち出す横須賀市による「誘客戦略」があった。画狂人・井上文太さんとの取り組みなどから、その背景をひもとく。
能と狂言を上演
運慶展に関連する形で企画し、横須賀美術館で上演したのが、運慶ゆかりの三浦一族が登場する能と狂言だ。よこすか芸術劇場で長年開かれている「よこすか能」のプロデューサーである能楽師・観世流シテ方の観世喜正(かんぜ・よしまさ)が、能「七騎落」に出演した。さらに日本を代表する狂言方の野村萬斎が、狂言「朝比奈」に出演したのだ。この公演は大きな話題を集め、その様子はYouTubeでも期間限定で公開している。
会場は地階の所蔵品展示室の一角で、横須賀美術館の特徴的な吹き抜けに絵画を展示した独自の空間で、100人余りが能楽を観覧したという。岡本課長がこう振り返る。
「観世喜正さんは毎年、『よこすか能』を開かれていて、そのご縁で実現しました。運慶展に関連した演目を美術館の中で、しかも画狂人・井上文太さんに描いていただいた背景画をバックに上演しました。全国でもかなり珍しい取り組みだと思います。6500円で販売しましたが、倍率は13倍以上でした。当日は台風だったにもかかわらず、ほぼ予定通りご来場いただけました」
この背景画「波と光」を描いたのが、画家の井上文太さんだ。運慶展と呼応する形で文太さんの絵画や立体作品を展示した特集展示「井上文太 Inspirations」を、7月2日から9月25日まで開催している。文太さんの特集展示は能の上演と相まって、インターネットでも話題を集めた。
画家の金子國義さんに師事していた文太さんは、国際海洋保護団体「OCEANA」が主催する「Christies’ The Green Auction」で、2011年に日本人として初出品した代表作「Light Wave」によって海外デビューも果たした世界的画家だ。
画家としての活動以外にも、三谷幸喜脚本のNHK連続人形劇『新・三銃士』やNHKパペットエンターテイメント『シャーロックホームズ』のキャラクターデザイン・美術監修を手掛けている。
今回の特集展示では、自然環境や生物多様性の保全をテーマとした「生命」シリーズ、横須賀市が発行した歴史冊子やフリーペーパーに提供した挿絵原画など、文太さんの多彩な仕事を紹介している。加えて鎌倉幕府で重要な地位を占めた三浦一族や、猿島の歴史を描いた新作も初披露した。
「文太さんのファンの方も美術館にご来場くださり、SNSでの反響もありました。運慶展では浄楽寺に5躯あるうちの2躯を展示していましたが、文太さんは残りの3躯を実際に拝観してくださり、描いてくださいました。その3躯の仏画を特集展示で展示しています。運慶展と文太さんの特集展示が補い合い、共鳴し合う関係となり、それがお客さまにも伝わったのだと思います」(岡本課長)
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