運慶からスカジャンまで 横須賀美術館が仕掛けた「市内との相互誘客戦略」:運慶展+特別展「特集:井上文太 Inspirations」(5/5 ページ)
「運慶 鎌倉幕府と三浦一族」が約2カ月間で、5万人の来場者を集めた横須賀美術館。好調の背景には、「美術館を街づくりに生かしていく」というコンセプトを打ち出す横須賀市による「誘客戦略」があった。画狂人・井上文太さんとの取り組みなどから、その背景をひもとく。
スカジャン展を開催 “尖った”企画を続ける理由
横須賀美術館は、市の歴史冊子やフリーペーパーの制作をきっかけとして、文太さんと関係を構築することができた。その結果、運慶展と関連した特集展示を開催するに至ったのだ。自治体とアーティストの連携として、成功事例の1つといえるだろう。岡本課長は語る。
「さまざまな人とつながり、ある意味では“尖った”企画をやらないと、なかなか足を運んでもらえません。自治体間の競争も激しくなっています。今までやってきたことを、そのまま踏襲するのではなく、いろいろな経験を積むことで企画のアイデアを考えるようにしています。当館では、8人の学芸員が議論して案を出し合っています。普段からいろいろな人に会い、他の美術館の企画を見て、横須賀美術館だったらこういうことができると発想するようにしています」
スカジャン展を開催
同美術館では11月19日から12月25日まで「スカジャン展」を開催する予定だ。スカジャンはもともとスーベニアジャケットと呼ばれ、戦後、米兵のお土産(スーベニア)として、全国の米軍基地や、その周辺で販売されていたものだ。後に、このジャケットが、日本に里帰りした際に、横須賀の名を冠した「スカジャン」と呼ばれるようになった。
スカジャンは、東京2020オリンピック競技大会の公式ライセンス商品としても販売され、伝統工芸品部門の売り上げでも1位になった。「スカジャン展」では、戦後からスカジャンを販売している「ドブ板通り」と連携する。そして現地でもサテライト展を実施して、スカジャンの本場を体感することによって、市内との相互誘客を図るという。
「少し距離はあるのですが、美術館にもドブ板通りにも足を運んでいただきたいと思って連携企画を考えています。横須賀にある当館でしかできない展覧会だと思っていますし、スカジャンの刺繍はまさにアートだと思っています」(岡本課長)
誕生してから75年以上がたつスカジャン。米兵のお土産からファッションアイテムへと昇華し、現在も根強い人気を誇っている。展覧会ではスカジャンが持つ多彩な魅力を、その歴史や背景とともに伝えていきたいという。
横須賀市の上地克明市長は、環境啓発フリーペーパー「生命あるものは美しい" The Beauty of Life "」の中で、「市民が自分の街を自慢したくなるような街にしたい」と発言している。地域の資源を活用して観光を促進することに悩む自治体が少なくない中、横須賀市の取り組みは参考になるはずだ。今後もさらに面白い企画が出てきそうだ。
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