さいたま市を“幸福度ランキング”1位に押し上げた、10年来のスマートシティ構想:自治体DX最前線(4/4 ページ)
さいたま市が幸福なまち、住みたいまちとして躍進している。2020年には、全国に20ある政令指定都市の中で「幸福度ランキング」の1位を獲得した(日本総合研究所調べ)。その一因は、さいたま市が推進してきたスマートシティ構想だ。
デジタルだけではないスマート化
筆者は取材を通じ、さいたま市が取り組んでいるスマートシティ構想は、幅が広く、かなりさまざまな分野を包含していることを知った。全ての取り組みを紹介するとしたら、大長編になってしまうことだろう。
エネルギー・環境問題への取り組みから始まったさいたま市のスマートシティ構想。それが都市計画、データ利活用などの取り組みにも広がり、少子化・超高齢化社会の課題を解決する意義を持つまでに発展した。
清水氏は「これらは行政だけの力ではできない。『公民+学』の連携が不可欠であり、重視すべきものと考えている」と強調する。例えば「ミソノ・データ・ミライ」プロジェクトは、美園タウンマネジメント協会が実施している。さいたま市が旗振り役となりつつ、民間企業、大学・研究機関が企画運営を行っている。
「住みやすさ、つまり住民の幸福度を上げることは、行政がお金をかけるだけでは実現しない。幸福なこと、つまり生き生きと生活することには、住民同士のコミュニティ、質の高い教育、生活しやすさを実現するさまざま民間企業によるサービスが関係しているからだ。『公民+学』の連携により、市民の生活の質、満足度を上げることで、住みやすさ、幸福度が上がるのではないだろうか」(清水氏)
実際、さいたま市が07年から行っている「さいたま市民意識調査」内の「住みやすさ」と「定住意向」を見ると、右肩上がりだ。清水氏が市長に初当選した09年にはそれぞれ76.2%、83.1%だったが、20年には86.3%、85.0%へとポイントアップしている。
清水氏は「美園地区で行ってきた実証実験を市内全域へ広げたい。各自治体の都市OSと連携することで相乗効果を発揮させたい。これにより、連携した自治体もともに住みやすい街になるし、お互いに開発コストを下げることもできる」と語る。
有山氏は「データの利活用が現実のものとなったので、新しい産業が生まれるようなサイクルを作っていきたい」と意気込む。「データ単体では、ただそこにあるだけだが、掛け合わせることで新しい発見が生まれ、新しいサービスにつながる。そこからまたデータが生まれ、上昇するスパイラルが生まれるはずだ。重要なのは、行政にできることが限られていることを認識し、旗振り役に徹しつつ、企業や教育機関とフラットにつながって役割分担していくこと。これにより、住民のQOLを上げる、住みやすいまちづくりを行っていける」
「スマートシティ構想は、住みやすさのカギを握っている。スマートシティや自治体DXというと、どれだけデジタル化できたのか、業務の効率化が図れたのかということを指標にしがちだが、私たちが目指しているのは市民の幸福度アップ。その証である『住みやすさ』を90%にまで上げていきたい。災害に強く、交通の便がよく、教育にもスポーツにも力を入れているというもともとの地の利を生かしつつ、まだまだ遅れているデータの利活用への取り組みを住民の満足度アップのために行っていきたい」(清水氏)
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