16億円もかけたのに、なぜ「国葬」がチープに感じたのか 「低賃金」ならではの理由:スピン経済の歩き方(6/7 ページ)
16億円をかけた「国葬」が、その額のわりに「安っぽい」という指摘が出ている。確かに、パイプ椅子が並んでいたり、祭壇が薄く見えたりしたが、それ以外にも理由があるのではないか。筆者の窪田氏は「安いニッポン」が影響しているのではないかと見ている。どういうことかというと……。
会場や演出が安っぽくなるのは当然
先ほども申し上げたように、いつまでたっても日本の賃金が上がらないのは、諸外国のように、最低賃金の引き上げをしっかり進めてこなかった結果だ。
「じゃあ進めろよ」と思うかもしれないが、自民党政権にはそれができない「オトナの事情」がある。最低賃金の引き上げに反対している、中小企業経営者の業界団体「日本商工会議所」や全国の商工会は、自民党の支持団体のひとつだ。
旧統一教会問題でも分かるように、政治家というのは基本的に自分の選挙を応援してくれる人たちに逆らえない。自民党は政治力学的に「賃上げを進められない政党」なのだ。だが、それを言ってしまうとミもフタもない。
そこで政府はどうするのかというと、「賃上げを後押しする」という名目で、補助金や税制の優遇など、中小企業経営者に手厚い保護をする。コロナ禍で飲食店などにばらまかれた協力金などが、現場で働くバイトやパートにほとんど還元されなかったことからも分かるように基本的に、経営者へのバラマキは、運転資金や経営者のポケットマネーに消える。
だが、政府自民党的には問題ない。むしろ、それでいい。低賃金のアルバイトやパートは組織力がないので、選挙の時は「浮動票」扱いでほとんど役に立たないが、中小企業経営者は先ほど紹介した業界団体もあるので、恩を売れば頼もしい組織票となるからだ。
つまり、「労働者の賃金を上げていく」という本来の目的にかこつけて、「中小企業経営者保護で選挙支持獲得」という下心を優先させてきたことも、「安いニッポン」につながっているのだ。
「安っぽい国葬」も構造はよく似ている。本来は「暴力に倒れた安倍元首相の死を悼む」という目的なので、カネを注ぎ込むべきは国民にそれを伝えるべき会場や演出だ。しかし、政府は早々に故人への敬意そっちのけで、「弔問外交」というメリットを強調してきた。
「弔問外交で支持率V字回復」という下心を優先させれば当然、国葬会場の備品や演出は安っぽくなる。海外のVIPを招いて会談することが何よりも重要なので、葬儀自体はあくまで「きっかけ」に過ぎず、最低限の体裁が整えばいいからだ。
ちなみに、こういう目的を見失って、安っぽくなるというのは、企業のPRイベントなどでもよくある。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
スノーピークは「法的措置」を準備してはいけない、これだけの理由
アウトドアブランドの「スノーピーク」が、怒りのリリースを発表した。同社の山井梨沙社長が「不倫辞任」したことに対して、全く関係のないデマが増えているので、やった人間を訴えると警告しているのだ。しかし、スノーピーク社のスタンスにもやもやしている人も多いのではないだろうか。なぜかというと……。
「大量閉店」に追い込まれたのに、なぜクリスピーは“復活”したのか
クリスピー・クリーム・ドーナツの売り上げが好調だ。売り上げが落ち込んで大量閉店に追い込まれたのに、なぜ復活できたのだろうか。取材したところ、2つの理由が浮かんできた。
ちょっと前までブームだったのに、なぜ「高級食パン」への風当たりは強いのか
どうやら「高級食パン」のブームが終わるようだ。最近、さまざまなメディアがこのように報じているわけだが、なぜ「高級食パン」への風当たりは強いのか。その背景には、2つの理由があって……。
東芝に売られた事業が軒並み好調な事情
2016年以降、東芝に売られた事業は、医療機器事業、白物家電事業、スマートメーター事業、メモリ事業、パソコン事業、テレビ事業と目白押しだ。そしていずれも見事に独り立ちして成長しているのだ。その意味を考えてみたい。
登山家・栗城史多さんを「無謀な死」に追い込んだ、取り巻きの罪
登山家の栗城史多さんがエベレスト登頂に挑戦したものの、下山中に死亡した。「ニートのアルピニスト」として売り出し、多くの若者から支持を集めていたが、登山家としての“実力”はどうだったのか。無謀な死に追い込まれた背景を検証すると……。
