月給35万円のはずが、17万円に……!? 繰り返される「求人詐欺」の真相:働き方の「今」を知る(6/6 ページ)
求人票に記された情報と職場実態が大きく異なる、「求人詐欺」が後を絶たない。洋菓子店マダムシンコの運営会社の元従業員は「月給35万円との約束で入社したが、実際は月給17万円だった」として労働審判の申し立てをしている。求職者を守る法律や求人メディアの掲載基準もあるにもかかわらず、なぜ求人詐欺はなくならないのか? ブラック企業アナリストの新田龍氏が実態に迫る。
改善の兆しは……
トラブルがまったく減ることのない現状を受けて、国は2022年10月1日に職業安定法を改正した。変更点として、これまで規制の対象外であった「求人サイト」や、今般のインディード社のようにネット上に存在する公開求人情報を自動収集して表示する「クローリングサイト」の運営業者に対しても国への届け出を義務付け、虚偽情報などを提供した場合は改善命令を出せるようになったのだ。
悪質な場合は事業停止命令も出せ、利用者からの苦情受付窓口の設置も運営業者に義務付けられる。求人企業側も、虚偽の表示や誤解を生じさせる表示をしてはならず、募集を終了したり内容変更をしたりしたら速やかに反映させるなど、求人情報を常に正確かつ最新の内容に保たなければならない旨があらためて明文化されている(参考:厚生労働省「職業安定法 改正のポイント」)。
業界全体として、悪意ある求人広告は規制強化されていく流れであるし、虚偽記載が発覚すれば、当該企業の信用が壊滅するのみならず、業界全体に対するイメージダウンともなり得る。
ただでさえ優秀な人材が不足する中だからこそ、求人を考える経営陣は「ダメなものを、小手先のテクニックでなんとなく良く見せよう」とムダな努力を払うより、「もうかるビジネスをする」「働きやすい労働環境を整備する」「ネガティブな面も率直に開示したうえで、経営者や組織の魅力で選ばれるようになる」といった、本質的な部分で勝負してほしい。それこそが、企業が存続し繁栄していけるか否かの分かれ道となるだろう。
職業安定法改正により良い方向への変化しつつあるが、求職者側も自衛のための備えをしておくことをお勧めする。例えば企業への応募選考時、不明な点は遠慮なく確認すべきであるし、重要な点は口頭説明を受けるだけで終わらせるのではなく、書面やメールなど、形に残る状態で記録できるよう要請しよう。
よく「面接時のマナー」といった文脈で、「待遇面の質問をするのは失礼」などという教えがなされているのを見かけるが、まったくもって有害なアドバイスだ。本稿で述べてきた通り、採用側は待遇条件を明示しなければならないと法律で定められている。働く人の生活にも直結する重要事項でもあるのだから、遠慮なく確認すべきなのだ。
とはいえ、求人詐欺根絶のためには、自助努力と自衛策だけに期待するのには無理がある。やはり国として、さらなる厳しい法規制を求めたいところだ。
現行法における「虚偽の広告をなし、または虚偽の条件を提示して」との要件はまだまだハードルが高いので、例えば実際の労働条件が、求人広告で明示した労働条件よりも一定割合を下回っていた場合には直ちに指導監督が入るようにし、社名公表、刑事罰適用も含めた厳罰体制にすることなどを期待したい。
そのためには、労働基準監督官の増員、労働行政へのより手厚い予算配分も必要となるだろう。全ての人が安心して働ける社会のためにも、ぜひ実現させてほしい。
著者プロフィール・新田龍(にったりょう)
働き方改革総合研究所株式会社 代表取締役/ブラック企業アナリスト
早稲田大学卒業後、複数の上場企業で事業企画、営業管理職、コンサルタント、人事採用担当職などを歴任。2007年、働き方改革総合研究所株式会社設立。労働環境改善による企業価値向上のコンサルティングと、ブラック企業/ブラック社員にまつわるトラブル解決サポート、レピュテーション改善支援を手掛ける。またTV、新聞など各種メディアでもコメント。
著書に「ワタミの失敗〜『善意の会社』がブラック企業と呼ばれた構造」(KADOKAWA)、「問題社員の正しい辞めさせ方」(リチェンジ)他多数。最新刊「クラウゼヴィッツの『戦争論』に学ぶビジネスの戦略」(青春出版社)
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