「田園都市線」は多くの人が嫌っているのに、なぜ“ブランド力”を手にできたのか:スピン経済の歩き方(4/6 ページ)
「通勤地獄。なぜあんなところに住むのか」――。SNS上で「東急田園都市線」が批判されている。街は整備されていて商業施設もたくさんあるのに、なぜこの沿線をディするのか。その背景に迫ったところ……。
時代に合わせた「セレブ感」を演出
こうなると、既存の住民だけではなく、若いファミリー層も「住みやすいかも」と新たに流入してくる。そうして沿線の「価値」をキープしながら、二子玉川やたまプラーザというブランドタウンに投資を集中していく。「憧れの街」に新しい商業施設、新しい高級マンションができて進化すれば、時代に合わせた「セレブ感」を演出できる。
実際、19年に東急が発表した「長期経営構想」には、同社が「プラチナトライアングル」と呼ぶ、渋谷〜自由が丘〜二子玉川に注力する方針とともに、田園都市線沿線に関しても、「鉄道・不動産・生活サービスの各事業の総合力を一体的に発揮」することによって、「街ブランディング」を進めていくというビジョンが掲げらている。
このような東急グループをあげた大規模開発によって、地域住人の人生そのものを丸のみするようなインフラの充実が達成できていることが、田園都市線のブランド力につながっているのではないか。
では、なぜこんなにことがうまく進んだのかというと、この沿線はゼロから東急がつくった「人工の街」で、比較的自由に開発を進めることができたということもあるが、「強盗慶太」と呼ばれたほどパワフルだった、五島氏のDNAが今の東急にも脈々と引き継がれている、ということもある。
よく言われることだが、戦後まで溝の口駅(川崎市)から先は静かな農村地帯で、交通手段はバスと乗合馬車しかなかった。そこを開発したのが、五島慶太氏率いる「目黒蒲田電鉄」だ。
鉄道と都市開発を一体で進める阪急電鉄の小林一三の手法を首都圏にもってきたものだが、東急のやり方はスケールがケタ外れだった。
例えば、1966年に東急電鉄は、東急田園都市線延長開業に合わせて、「ペアシティ計画」というものを発表している。江田駅にこの沿線の中心となる複合施設を建てるというもので、目玉は高さ330メートルの「ペアシティ タワー」という全1700戸のタワーマンションだ。屋上にはヘリポートがある。1階には480店からなるショッピングセンターができる予定だった。
ご存じのように、日本で一番高いビルの「あべのハルカス」は300メートルだ。それを超えるタワーマンションを、まだ多くの日本人が「団地住まい」に憧れていた半世紀以上前にぶちまけていたのである。東急電鉄という会社が狂気にも似た執念で、東急田園都市線沿線を開発しようとしていたかがうかがえよう。
そこに加えて、五島慶太氏はもっとぶっ飛んだ構想があった。小田原・箱根峠間に「箱根ターンパイク」というものがあって、これを開設したのは東急なのだが、実はこのターンパイク計画にはまだ続きがあった。
1954年、東急は渋谷と江ノ島の間を結ぶ有料道路「東急ターンパイク」の免許申請をしている。もしこれが実現していれば、渋谷から江ノ島まで一本道で行ける。東急田園都市沿線の住民にとってかなり利便性の高い有料道路となっていたのだ。しかし結局、2年後の56年に設立された日本道路公団の「第三京浜道路」に譲る形で、この計画は幻に終わる。
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