すき家の「深夜の自主トレ」は許されるのか 駐車場で店員2人が接客:スピン経済の歩き方(4/5 ページ)
すき家の「深夜の接客自主トレ」が話題になった。午前0時の投稿だったので「やっぱりブラック企業?」といった憶測が飛び交ったが、本人の希望ということが明らかになると、称賛の嵐となった。それにしても深夜の駐車場で、店員2人が接客のトレーニングをすることは、いかがなものか。
ブラック企業的な言い訳
今回の「深夜の半袖自主トレ」はバイト自身が「指導してください」と強く望んだことなので、「すき家」側にはなんの問題もない。ただ、本人が望んだからといって、健康に配慮することなく、そのままやらせてしまうという意味では、「パート女性の悲劇」から何も学んでいないのではないか。
筆者がこのような苦言を呈する背景に、もうひとつ大きな理由がある。日本の低賃金、サービス残業、パワハラに象徴される「ブラック労働」がいつまでもなくならない根本的な原因は、「労働者自身がブラックな働き方を望んでいる」という厳しい現実があるからだ。
筆者はこれまで報道対策アドバイザーとして、「ブラック企業」と世間から呼ばれるような企業や、過労死を出した企業などの内情を見てきた。そこでよく耳にしたのは、「本人からの申し出がありました」という企業側の釈明である。
会社側はメンタルヘルスに問題があるのでまだ休むように進言したが、本人の強い希望があって復職した。会社側は配属換えなどを提案したが、本人の強い希望があって今の部署にとどまることにした。
そんな調子で、法定時間を超えたサービス残業も、休日出勤も、パワハラ上司のもとにとどまるのもすべて「本人の希望」だったので、会社としてはどうすることもできませんでした、という言い訳が多いのだ。
これはうそでもなんでもなく、確かにそうなのだ。壮絶な過重労働で心身を壊してしまう人や、過労自殺などをしてしまう人たちの直前までの働きぶりを見ると、自ら進んでブラックな働き方をしているケースが圧倒的に多い。
「部署のみんなに迷惑をかけたくない」「この会社でクビになったら次の仕事が見つからない」「家族のためにもがんばらないと」という感じで、理由は人それぞれだが、本人からの申し出があって辛い仕事に従事している。そして、会社側は本人の意志を尊重して、ブラック労働を放置したという構図なのだ。
だから、会社としては「こっちは無理に働かせていたわけじゃない」「本人がやりたいってことをやらせていたら死んじゃったんだから、こっちは被害者みたいなものですよ」という言い訳ができるというわけだ。
日本には、こういう「自分たちから進んでブラック労働に身を投じる」というストイックな労働者が山ほどいる。安い賃金でも文句を言わず、「働きがい」や「スキルアップ」というニンジンをぶら下げるだけで、モチベーションが上がっていく。その象徴が「自主練」だ。
「バイトがコンテストに向けて自主的に練習していました」と聞けば、確かにイメージは悪くない。「努力」や「根性」が大好きな日本人の中には、「自主練」と聞くだけで感動する人も多い。
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