すき家の「深夜の自主トレ」は許されるのか 駐車場で店員2人が接客:スピン経済の歩き方(5/5 ページ)
すき家の「深夜の接客自主トレ」が話題になった。午前0時の投稿だったので「やっぱりブラック企業?」といった憶測が飛び交ったが、本人の希望ということが明らかになると、称賛の嵐となった。それにしても深夜の駐車場で、店員2人が接客のトレーニングをすることは、いかがなものか。
スポ根的イメージの訴求
だが、一方で「自主練」には多くの問題が潜んでいる。
部活動の自主練などが分かりやすいが、責任の所在が明確ではないので、事故が起きた際にはトラブルになりがちだ。また、ブラック部活が、文科省や自治体が定めた練習時間のガイドラインを破るために「自主練」が使われることも多い。
実際は、自主練なので自由参加なはずなのに、裏では暗黙のルールで「強制参加」なんて話も、部活動などでは珍しくない。個人的には、こういう「自主練カルチャー」に対して、「目標に向かってひたむきにがんばる姿に感動をする」という感じで美談にする風潮が、「自ら進んでブラック労働に身を投じる」という働き方をつくっているような気がする。
「すき家」の「深夜の自主トレ」は、バイト本人たちが望んだことなので確かになんの問題もないのだろう。ただ、一方で「ブラック」と呼ばれるような企業では、そういう若者たちの熱意、スキルアップをしたいという向上心を利用してきた現実もある。いわゆる“やりがい搾取”だ。
労働人口が急速に減っていくこれからの日本では、このように根性論で若者を低賃金重労働させることについて、厳しく目を光らせていかなくてはいけない。
美談だ、感動だ、ともてはやすのは気持ちがいいが、ちょっと冷静な視点で「深夜の自主トレ」というこの現象を考えてみてもいいのではないか。
窪田順生氏のプロフィール:
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
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