なぜ、「AOKI」がひとり勝ち? 会社を救った大ヒット商品と、紳士服以外の事業:長浜淳之介のトレンドアンテナ(6/6 ページ)
紳士服4大チェーンで、「AOKI」を展開するAOKIホールディングスが復活を果たしつつある。競合他社は苦戦しているのになぜなのか? 背景を探っていくと……。
紳士服店一筋のはるやま
業界4位、はるやまホールディングスの22年3月期決算は、売上高367億円(前年同期比4.0%減)、経常損失23億円(前年は30億円の損失)、最終損失79億円(前年は49億円の損失)に終わった。
大手4社で21年より22年の売上高が減ったのは、はるやまだけである。4社の中では唯一、紳士服店一筋の王道を貫いている。そのためコロナ禍の影響が長引いている。
店舗数は、21年3月末には445店あったが、22年3月末には411店と、1年で34店の不採算店を閉めた。コロナ前の19年3月末は474店あったから、3年間で63店減っている。およそ14%の店がコロナ禍で失われた。
しかし、スリム化した効果は出てきている。23年3月期中間決算では、売上高147億円(前年同期比10.9%増)、経常損失9億円(前年は34億円の損失)、最終損失12億円(前年は35億円の損失)と、赤字が縮小した。
今秋の新作から1つ挙げると、10月に同社オリジナルのブランド「TOKYO RUN」より、撥水・撥油加工生地を使用、汚れにくい機能性を追求した「ビジカジスーツ」を発売している。
ビジネスのオンでもオフでも着られる、高ストレッチの仕様。パンツはウエストシャーリングとなっており、スポーツウェアのような楽な着心地を追求したという。ウォッシャブルで、家庭で洗濯できるので、クリーニング代が節約できる利点もある。価格は2万1780円(オンラインショップの価格、9月21日時点)。
もう少しそそる商品名を付けて欲しいところだが、爆発的ヒットを期待したい。
求められるスピード感とイノベーション
以上、紳士服業界はコロナ禍でリモートワークが推進され、ビジネスパーソンがスーツを着用して通勤する機会が減ったため、大きな打撃を受けた。現状は、通勤ラッシュも復活しているが、リモートワークも一定程度は定着して、コロナ前までの市場規模に戻りそうにない。
そこで、ビジネス服の概念が変わったと判断し、青山とはるやまはビジカジに舵を切り、コナカは着回せる7WAYスーツを考案。AOKIは部屋着の延長でビジネスに対応できる、パジャマスーツの開発に至った。カジュアル寄りのビジネス服は、コロナ禍で注目され、AOKIが先行しているが、ヒット商品1つで業界の勢力図が一変する可能性がある。
小島健輔・小島ファッションマーケティング代表によれば、19年の紳士スーツの国内市場は、2250億円を割り込むくらいだったという。ピーク時の1992年には7750億円があったから、3割程度にまで激減している(出所:商業界オンライン『紳士スーツ市場の変貌はもう止まらない』19年8月9日付)。もともと、厳しい環境に置かれていた。
それゆえに、はるやまを除く3社は、危機感を持って多角化を進めてきた。最も成功したのが快活クラブで、リモートワークの場所を提供したAOKIだった。
青山、コナカも勢いのある外食のFCに加盟するなど、狙いは悪くない。間もなく黒字転換するだろうが、スピード感とイノベーションが欲しい。
AOKIは6月に社長に就任したばかりの東英和氏が、12月6日で副社長に降格。代わりに副社長の田村春生氏が社長に就任した。健康上の理由とのこと。
また、東京オリンピック・パラリンピックのスポンサー選定を巡り、青木拡憲前会長をはじめ3人が贈賄容疑で逮捕された。企業イメージの悪化は否めない。
しかし、実践してきたポートフォリオ経営が揺るがなければ、乗り越えられるだろう。
著者プロフィール
長浜淳之介(ながはま・じゅんのすけ)
兵庫県出身。同志社大学法学部卒業。業界紙記者、ビジネス雑誌編集者を経て、角川春樹事務所編集者より1997年にフリーとなる。ビジネス、IT、飲食、流通、歴史、街歩き、サブカルなど多彩な方面で、執筆、編集を行っている。著書に『なぜ駅弁がスーパーで売れるのか?』(交通新聞社新書)など。
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