海外で「給料上げろ」の声が広がっているのに、なぜ日本では聞こえてこないのか:スピン経済の歩き方(4/7 ページ)
海外で「賃上げストライキ」が増えている。世界的な物価高を受けて、多くの国で労働者が怒りの声を上げているのに、なぜ日本ではそうした動きがでてこないのか。背景を探ってみると……。
日本で、ストライキが少ない理由
では、なぜ日本はストライキが異常なまでに少ないのか。「日本人はカネのためだけに働いているわけではないので、他国の労働者のようにガツガツしていない」と分析する人もいる。1970年代の日本赤軍や連合赤軍などの過激派が起こした事件のせいで、左翼活動へのトラウマがあるという人もいる。しかし、実は一番大きいのは戦後、公務員のストライキが法律で禁止されたことだ。
この「お上が禁じている」ということにより、同調圧力に弱い日本人の頭の中に80年かけて、「ストライキ=反社会的」というネガなイメージが刷り込まれてしまったのである。
実際、皆さんが勤めている会社で、同僚が賃上げを求めてストライキを計画していたらどう思うだろうか。「この忙しいのに迷惑だな」「そんなことをやっている暇があるなら働けよ」などとイラッとする人がかなり多いはずだ。世界では当たり前のストライキは、日本ではいつの間にやら、「自分の金欲しさにみんなに迷惑をかける卑しい行為」という位置付けになっているのだ。
そこに加えて、国が「安定した労使関係」を国策として推進したことが大きい。これによって、企業側と労働組合は対抗的な団体交渉ではなく、「労使協議」という相互に協力して対話をすることになった。
なぜ国はこのようなスタイルを推進したのかというと、生産性向上のためだ。いがみあって業務に支障が出るよりも、仲良く話し合いで賃金を決めたほうがサクサクと仕事が進んで経済活動が円滑に進むはずだ、と日本のエリートたちは考えたのだ。もちろん、この根底には、公務員が剥奪されているストライキの権利を、なんで民間人にだけ認めなくちゃならないのだという「平等思想」があることは言うまでもない。
まさしく日本の「和をもって尊しとなす」的な発想だが、現実はそううまくいかず、「和をもって低競争力・低賃金となす」になってしまった。
労組と馴れ合いの関係になったことで、経営側は「高い賃金を払うために成長を続けなくてはいけない」という厳しい環境に追い込まれなくなった。要するに、諸外国の経営者のように常に賃上げのプレッシャーにさらされないので、「ラク」ができるようになってしまったのだ。
実際、ストライキは70年代から激減して、「安定した労使関係」が増えていった。国の考えでは労使の関係がいいわけだから、企業の生産性は上がって、日本経済も安定的に成長していくはずだ。
しかし、現実は逆だ。ストライキや労働争議が減れば減るほど、日本企業の生産性は落ちて、賃金も上がっていない。当然、日本経済は「失われた30年」という低迷期からいまだに抜け出せていない。
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