「芸名禁止」はNGで「恋愛禁止」はOK? 愛内里菜さん裁判から考える、契約条項に潜むリスク:その契約、大丈夫? 弁護士が解説(1/4 ページ)
歌手の愛内里菜さんと専属契約を結んでいた事務所が「芸名使用」を巡って起こしていた裁判が話題になった。芸名以外にも「恋愛禁止」などの条項を盛り込んだ契約は、時折議論を呼ぶ。果たして、契約はどこまで許されるのか。弁護士が解説する。
契約終了後は、事務所の承諾なしに芸名を使ってはいけない――歌手の愛内里菜さんと専属契約を結んでいた事務所が、「芸名」を巡り起こしていた訴訟が話題になった。
昨今、タレント(芸能人、声優やアーティストなど)が事務所から独立するといった報道をよく目にする。事務所の脱退時や脱退後に、契約条項を巡ってトラブルが発生する事案も多い。
「恋愛禁止」も契約条項の一つ
タレントは入所に当たって、基本的に事務所との間で専属マネジメント契約を結ぶことになるのだが、このマネジメント契約においては、報酬の取り決めなどのほか、契約当事者の権利と義務を定めている。この取り決めの内容こそが契約条項であり、その内容はさまざまである。
例えば、一定の事項が生じた際に、事務所がタレントに対して違約金を請求できることを定める「違約金条項」や、脱退後の芸名の使用を事実上禁止する「芸名使用禁止条項」、契約期間中の恋愛を禁止する「恋愛禁止条項」などがある。
このような契約条項については、基本的には当事者間の合意のもと、その内容は自由に定められるのが原則である(契約自由の原則:民法第521条)。
契約自由の原則
民法第521条第2項「契約の当事者は、法令の制限内において、契約の内容を自由に決定することができる」
もっとも、中には、法律上、契約条項そのものが無効とされることがある。これはマネジメント契約に限定された議論ではなく、広くあらゆる契約において、不当な内容の契約条項については、公序良俗に反する(公序良俗:民法第90条)などの理由で無効とされることがある。
公序良俗
民法第90条「公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする」
本記事では、愛内里菜さんと所属事務所との間の裁判を参考に、マネジメント契約における芸名使用禁止条項を取り上げてみたい。
古くは加勢大周、最近では能年玲奈……
歌手の愛内里菜さんと専属契約を結んでいた芸能事務所が、契約終了後も事務所の承諾なしに芸名を使用してはならない旨の契約条項(芸名使用禁止条項)に基づき、芸名(愛内里菜)の使用差し止めを求めた訴訟について、22年12月8日判決が出た。
判決において、東京地裁は「当該芸名使用禁止条項は無効である」として、事務所側の芸名の使用差し止め請求を棄却している。具体的には、「契約終了後も無期限で会社側の承諾なしに芸名を使用することができない旨の条項は、公序良俗に反するもので無効」と判断した上で、芸能事務所側が求めた使用の差し止めを認めなかったのである。
芸名使用禁止を巡って、古くは「加勢大周」さん、最近では女優の「のん」さん(本名「能年玲奈」)などが事務所を脱退した際に問題になっていた。芸名使用禁止条項の有効性についても、議論がなされてきた経緯がある。
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