乗客に暴言を吐いたバス運転手、発覚後に「辞めたくない」 自主退職を迫った上司はパワハラ?(1/2 ページ)
本件は、路線バスの運転手が退職強要、人格否定などのパワハラを受けたとして、取締役や上司らに対して共同不法行為に基づき、会社に対し使用者責任に基づき慰謝料などの支払いを求めた事件。
「人事労務実務のQ&A」とは?
『人事労務実務のQ&A』は初任者からベテランスタッフまで全ての人事・労務関係者の実務に役立てられるよう、人事・労務に関するタイムリーな話題や、いまさら聞くに聞けない基本的な事項などをQ&A形式で解説する月刊誌です。
本記事は、2022年10月号に掲載された「連載『Q&Aで読む最新労働判例』第130回 東武バス日光ほか事件/【執筆】弁護士・木下潮音」を、ITmedia ビジネスオンライン編集部で一部編集し、転載したものです。
本件は、路線バスの運転手が退職強要、人格否定などのパワハラを受けたとして、取締役や上司らに対して共同不法行為に基づき、会社に対し使用者責任に基づき慰謝料などの支払いを求めた事件。一審の宇都宮地裁(令和2年10月21日判決)は、原告の請求を会社と上司ら全員に対し66万円等の連帯支払いを求める限度で認容しました。
本判決では、人事担当役員と上司1人の退職強要発言には共同不法行為に基づく損害賠償責任を認めましたが、他の上司らの叱責の際の発言については、厳しいものがあったとしても直ちに社会通念上許容される業務上の範囲を超えたことにはならないとして、一審の判断を変更しました。
Q1:どんな事件ですか
X(原告、被控訴人)は路線バスの運転手としてY社(被告、控訴人)に勤務していますが、Xが業務中に乗客に対して暴言を吐くなどの行為を繰り返していたことが乗客やその保護者の苦情から発覚しました。
令和元年7月22日から同年10月14日までの間に、Yの営業所で上司である取締役運輸総括部長B、助役C、同D、同Eおよび運行管理者F(いずれも被告、控訴人)から業務上の指導を受けました。
その際に、退職強要、人格否定、過小な要求(業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)というパワーハラスメントを受けたとして、Bらに対して共同不法行為に基づき、Yに対して使用者責任に基づき、慰謝料200万円及び弁護士費用相当損害金20万円とこれらに対する遅延損害金の連帯支払い求めた事件の控訴審です。
原審では、Xの請求をYら全員に対し66万円および遅延損害金の連帯支払いを求める限度で認容しました。
Q2:何が争点となったのでしょうか
控訴人らの発言ないし指示の有無及び違法性(争点1)とXの損害(争点2)です。争点1について、原審では、XとBらの間で令和元年7月22日から24日までに6回行われた会話の機会のBらの発言には、その一部に、Xの自由な意思決定を困難とする退職強要発言が含まれていること、「チンピラ」「雑魚」という侮蔑(ぶべつ)的表現が含まれていることを認めて、不法行為が成立するとしました。
また、Xが令和元年9月17日から同年10月14日までの間にバス乗務から離れて営業所の事務所内で勤務をすることなどの業務指示について、社会通念上許容される業務上の指導を超えた過重な心理的負担を与える違法なものとして不法行為に当たるといえるとしました。
その上で、争点2についてXがうつ状態になったと診断されていることなどに鑑みて慰謝料の額として60万円と弁護士費用相当額は6万円と認定し、控訴人らに連帯して支払いを命じました。
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