「学歴フィルターは努力の結果」と思い込んでいる人が知らない、残酷すぎる真実:河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(4/4 ページ)
企業が否定しても、学歴フィルターは存在する。「学歴は努力の結果で平等だ」と考える人もいるが、果たして本当にそうなのだろうか。日本の就活のいびつさの背景にあるものとは──。
「個人の能力」と誰もが信じて疑わないスポーツの世界も同じでした。
大学にスカウトされて優先的に入学したスポーツ選手のうち、家庭の所得規模が下位4分の1に属する学生は、たった5%にすぎなかったというリアルを、膨大なデータを用い導いています。
一見すると公平に見える能力主義は、決して公平ではないし、どんなに才能に恵まれて生まれても、それが生かされるか否かは家庭環境との相互作用で決まるのです。
そもそも会社に雇ってもらいたいと志願するということは、自分が勝手に思い込んだ「自分の価値」をアピールすることでもなければ、エントリーシートの書き方を学ぶことでも、受けのいい写真映りを会得することでも、自己分析をすることでもありません。
「就職先を志願する」という行為は、もっと重みのある大切なもの。自分が入りたいと思う会社が、どんな人材を求めているかを知り、求めている人材に一歩でも近づく努力をする。自分が入りたいと思う会社に自分は入るだけの能力があるかを自問し、時には「自分の能力では難しいかもしれないな」と相性の見極めも必要です。自分の価値を決めるのは、自分自身です。
そのためには、企業側も「自分たちがどんな新人を求めているのか?」を一般論ではなく、自分たちの言葉で見つける努力が必要不可欠だし、採用の方法もエントリーシートに頼るのではなく、「自分の会社にホントに入りたい」と思っている学生だけがエントリーできる仕組みを考えるしかない。
そのうえで、一括採用に固執しないで通年採用にしたり、卒業から時間がたっていても受けられるようにしてみたりと、時間軸も同時に変える。「1社から内定をもらう」「一人に内定を出す」ことは、生半可な気持ちではできないし、やるべきでもない。
なのに、自分たちが汗をかくこともなく、ただただふるい落とすことばかりに躍起になっているのが、日本の企業であり、日本の就活です。
まるで一世一代のイベントのように、就職活動を扱って行動したところで、誰も幸せにはなりはしないのだから、もうみんな、やめましょうよ……。
河合薫氏のプロフィール:
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。
研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)、『他人の足を引っぱる男たち』(日経プレミアシリーズ)、『定年後からの孤独入門』(SB新書)、『コロナショックと昭和おじさん社会』(日経プレミアシリーズ)『THE HOPE 50歳はどこへ消えた? 半径3メートルの幸福論』(プレジデント社)がある。
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