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「投げ銭」の依存性 “推し疲れ”の一側面を解明するニッセイ基礎研究所(1/3 ページ)

ライブ配信やSNSなどで、推し(コンテンツ)に送金する「投げ銭」。国内の潜在市場規模は約3106億円を超えるという。中でも男女共に10代、20代の熱心な消費が注目されている。なぜ投げ銭が熱心に行われているのか、また投げ銭を巡る諸問題について考察した。

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ニッセイ基礎研究所

本記事は、ニッセイ基礎研究所「「投げ銭」の依存性−“推し疲れ”の一側面を解明する」(2022年12月9日掲載、生活研究部 研究員 廣荑 涼)を、ITmedia ビジネスオンライン編集部で一部編集の上、転載したものです。


1――10代、20代の間で熱心に行われる「投げ銭」

 ライブ配信やSNSなどで、ファンが気に入った推し(コンテンツ)に対して送金するシステムを「投げ銭」という。SNSでの配信機能の充実や配信アプリの普及に伴い、近年市場規模を拡大させている。2021年にFintertech株式会社が行った「投げ銭市場調査」によると国内の潜在市場規模は約3106億円を超えるという(※1)。中でも男女共に10代、20代の熱心な消費が注目されている。

(※1)「投げ銭サービスの国内潜在市場規模は約3,106億円と推計〜Fintertech、「投げ銭市場調査」を実施〜」2021/12/10

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図1 基本的な投げ銭の仕組み(※2)

(※2) 三菱UFJリサーチ&コンサルティング「ライブ配信サービス(投げ銭等)の動向整理」2018/12/14

2――アイドルの握手権における消費文化

 投げ銭は、推し活の一側面である。推し活の詳細は筆者の過去のレポート(※3)を参照されたいが、簡単に言えば、アイドルやキャラクターなど自身がひいきにしている対象を愛でたり応援したりするための活動を指す。

(※3)「2021年JC・JK流行語大賞を総括する−「第4次韓流ブーム」と「推し活」という2つのキーワード」基礎研レポート2021/12/15

 従来の推し活ではCDや写真集などの有形物を購入する事で“買い支え”(※4)する応援消費の側面と、CDなどについてくる握手券やツーショット券などを利用して推しているアーティストに直接会いに行くことで、自身の精神的充足を目指すトキ消費の側面が中心であった。従って、買い支えにしろ、握手券の大量入手(※5)にしろ、有形物を介して行われるため、アーティスト本人に直接全てが還元されるわけではない。

(※4) 推しに関する有形物を購入することで資金的に支援する 

(※5) 握手券は販促品なのでCDや写真集などを大量購入し、その結果販促品である握手券を大量に入手できる

 しかし、投げ銭という消費行動は現金(後日換金できるポイント)で直接“推し”に投資ができるわけで、消費者が消費(推しへの投資)によって得られる効用も従来の推し活とは少し性質が異なるようだ。

 例えば従来の買い支えでは、消費者が熱心に消費を行い、それがCDの売り上げや、売上ランキングの結果にいかに反映できるかがファンにとっての目的であった。そのため、推すアーティストに対して自身がどれだけ貢献しているかを知ってもらうすべは、自らが直接本人に伝えるという方法以外なかった。

 また、握手券についても、参加者は多くの支出をすれば多くの枚数を手に入れることができ、握手をする時間が長ければ長いほどアーティストと触れ合う時間は長くなり、その結果アーティストに認知してもらえるようになり、これがある意味自己承認欲求の充足につながっていたわけだ。

 アーティストと長く握手できるということは、間接的にアーティストのCDを多く購入したことの表れではあるものの、アーティスト本人からは、そのファンが実際にいくら自分に投資してくれたかまでは分かるわけではなかった。また、長く握手できればできるほど、そのアーティストの時間を拘束(独占)できるわけで、拘束時間が長ければ長いほど他のファンに対するマウンティング(※6)につながり、自身の独占欲を満たすこともできるわけだ。

(※6) 自分の方が優位と思いたいが故に、自分の方が立場が上であるとアピールすることを意味する。オタク同士のコミュニケーションにおいては、コンテンツに対する知見の深さやイベント参加経験等コンテンツ自体との結び付きの強固さをアピールする「経験力」、グッズの購買力や投資力をアピールする「経済力」、いつからファンかをアピールする「オタク暦」がマウンティングの主な対象となっている。

 しかし、自分が何枚握手券を持っているのかはSNSで自分が何枚使用したかを明らかにしない限り、他人に知ってもらうすべはなかったのである。推し活によるCDの大量購入については、大量購入したCDをダンボールに入れて不法投棄されていたことも度々問題になってきた。彼らは大量にCDが欲しいわけではなく、いらないのについてくるCDを所有しなくてはならないわけで、かつてビックリマンシールのためにチョコが捨てられていたように、捨てることが分かっているのに購入しなくてはならないという非合理的な消費が行われていたのである。

 ここまでをまとめると、従来の推し活では自身が課金したことや、課金額を推しているアーティストや他のファンに認知してもらうことが消費の構造的に難しかった。また、本来推し活は自身の精神的充足を満たすものであり、他人と比較するものではないが、いきすぎると他人と比較してマウントを取り合うことも普通であり、“推し”への消費を競い合うことが捨てることが前提となっているCDを購入するモチベーションにもなっていたのである。

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