大企業で相次ぐ「インフレ手当」が皮肉にも、貧しいニッポンを象徴しているワケ(1/2 ページ)
大企業を中心に、インフレ手当を支給する企業が増えている。戦後、インフレは何度もあったが、多くの企業がインフレ手当を支給するのは終戦直後ぶりだ。なぜ、今インフラ手当なのか。その理由とを探ると、日本の現状が見えてくる──。
インフレ手当を支給する企業が増えている。
11月には三菱ガス化学が最大6万円を支給。12月には三菱自動車が管理職を除く正社員など1万2000人に10万円を一時金として支給し、約2000人の期間従業員やアルバイトには7万円を支給した。
オリコンは月1万円の「インフレ特別手当」、家電量販店のノジマも月1万円の「物価上昇応援手当」を支給している。
帝国データバンクが11月中旬に約1200社の企業に調査した結果、インフレ手当の支給に前向きな企業が全体の26.4%を占めた。平均額は一時金支給企業が5万3700円、月額手当が6500円だった。
なぜ、いまインフレ手当なのか
それにしてもなぜインフレ手当なのか。11月の消費者物価指数は前年同月比3.7%上昇し、40年11カ月ぶりに高騰した。2022年の春闘の平均賃上げ率は、連合の最終集計結果は2.07%だ(7月5日発表)。
賃上げ率が物価上昇率を下回り、実質賃金も低下している。この異常事態を解消しなければ可処分所得の減少で生活は苦しくなる。だから、インフレ手当を支給するというのが共通した理由だろう。
しかし、それでも疑問が残る。
実は、インフレ手当が日本の歴史に登場するのは終戦直後だ。物価高騰によるハイパーインフレに対応するため労働組合が「飢餓突破資金」「越冬一時金」などの名目で特別賞与を要求。経営側が「物価手当」「インフレ手当」で答えたのが最初だ。その後、数年間にわたりインフレ手当が支給された。
今回のインフレ手当支給の波は、恐らくそのとき以来となる。
一方、インフレはその後何度も起きている。
代表的なのは1973年の第一次オイルショックのとき、消費者物価は前年比20%アップし、当時は「狂乱物価」と言われた。だが、それに対してインフレ手当に値するものが支給されることはなかった。
なぜなら、主要大手企業が平均賃上げ率32.9%という物価を上回る大幅な賃上げを実施したからである。
本来は当時と同じように、企業は賃上げという形で応じるべきなのだ。しかし、あえて時代錯誤的な「インフレ手当」が登場したのは、それだけ日本の賃金が上がらない、あるいは上げない状態が30年近くも続いたことによるというしかない。今では労働組合の組織率は16.5%と低く、「春闘だから賃上げしないといけない」という企業も減りつつある。
また、企業に余力があっても、賃上げ(ベースアップ)は簡単に行うものではないという考えが経営者に染みついている。その結果、75年ぶりに「インフレ手当」がよみがえったのであろう。つまり、賃金が上がらない日本を象徴する皮肉な現象が「インフレ手当」の登場といえる。
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