「謝罪会見は正直にしゃべればいい」の誤解 「大丸別荘」前社長の発言を振り返る:スピン経済の歩き方(5/5 ページ)
大浴場の湯を年に2回しか入れ換えていなかった老舗旅館「大丸別荘」の元社長が遺体で見つかった。自殺防止の観点からこの話を扱うのはよくないが、同じような悲劇を繰り返さないために何か提言できることはないのか。記者会見の発言を振り返ると……。
「うまい謝罪会見」を目指して
いずれにせよ、今回の大丸別荘のケースは、謝罪会見における元社長の「ぶっちゃけトーク」によって想定していた以上に厳しい社会的制裁を招いてしまった可能性が高い。
自分の指示であり、すべては自分の責任だと認めたところまではよかったが、「大したことない」「湯の入れ替えは盆と正月だけ」という切り取りやすく、国民感情を逆なでするような問題発言を連発してしまったことで、「叩きやすいヒール」にされてしまった。
そして、その国民のムードが、強い制裁を望む声につながってしまい結果、刑事告発となり、それが心を追いつめてしまった恐れがあるのだ。
筆者もよく世間から厳しく批判されるような企業・団体の報道対策を手伝う。マスコミやネット・SNSでボロカスに叩かれているうちに、「死んだほうがラクなのでは」というくらいまで精神的に追いつめられてしまう経営トップも何度かお目にかかった。まだ人前でしゃべることができるような精神状態ではなかった某経営トップの“逃亡”を手伝って、ホテルに身を隠させながら、会見準備をしたこともある。
そういう経験をして分かったのは、経営トップというのは非常に孤独な存在であることだ。特にワンマンで社内にイエスマンばかりの経営トップほど、何か不祥事が起きた際に打たれ弱い。孤独なのですぐにメンタルをやられてしまう。
今回の元社長も会見で、「すべて自分が指示をした」と繰り返し言っていて、塩素剤を入れるべきという従業員の声も受け入れなかったと言っていた。もしかしたら、彼もまた「孤独な経営者」だったのかもしれない。
だからこそ、このような悲劇を繰り返さないためにも、「謝罪会見トレーニング」が必要なのだ。経営トップが自分の好きなようにしゃべるのではなく、組織全体で「謝罪の言葉」や「説明」を試行錯誤しながらつくっていく。それが結果として、経営トップを孤立無縁にしないことにもつながる。
企業の皆さんはぜひとも事前練習をしっかりして、短期間にバッシングされて終了……という「うまい謝罪会見」を目指していただきたい。
窪田順生氏のプロフィール:
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
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