賃上げできない中小企業はどうする? 小さな保育園の「福利厚生」から学べること:単なるマネはダメ(5/5 ページ)
賃上げする企業が相次いでいるが、賃上げできない中小企業はどうすべきか? 筆者は独自の「福利厚生」に取り組むべきだと指摘する。
福利厚生を整える上で一番大切なこと
賃上げが難しい中小企業は、ここまでで挙げた企業を参考に福利厚生を充実させるべきだと思います。ただし、それが単なる、どこかの会社を模倣したユニークな福利厚生制度導入で終わってしまっては意味がありません。あくまでもみなさんの会社の企業理念や企業哲学にのっとった制度で、面白いものを考える必要があります。
「目を引くから」「メディアにとりあげられそうだから」という理由だけで導入しても、それは長く続きません。それどころか、社員の共感を得られず、時流とズレた会社だと思われてしまうでしょう。
第1に、福利厚生は大切ですが、自社の理念に沿った最適なものを考えることが最も重要です。
「花吉野えんめい保育園」(奈良県大淀町)では、月に1回、社内にマッサージ師を呼んで、朝から夕方まで、社員が無料でマッサージを受けられる(1人20分)制度を導入しているいます。保育士というのは、1日中子どもを抱っこしたりおんぶしたりしており、身体に疲れがたまりやすい職業です。そんな保育士さんたちに少しでも身体を整えてもらう機会を提供したいと1年前から始めました。とても好評で、いつもすぐに予約で埋まってしまいます。これ以外にも、ハンドケア、カラーセラピー、タロット占いなど、女性職員の多い職場でいかに働きやすい環境を実現するかを考えて実行しています。
子どもと向き合う仕事だからこそ、このような福利厚生が職員のモチベーション向上につながっていくのです。このような制度を導入すれば、最近の保育園で続けざまに起きた諸問題も起きにくくなるのではないでしょうか。
第2に、こうした制度を考える前にもっと重要なことがあります。
それは「仕事そのものの楽しさに気付かせること」です。
もっとも自由な働き方をして、人気になった企業はネットフリックスではないでしょうか。「No Rules!」という言葉を掲げているように、同社には基本的にルールがありません。その考え方は魅力的で、私も共感しています。しかし、ネットフリックスのマネジメントを成り立たせている最大のポイントは、社員一人一人が「超優秀」だということです。普通の会社が形だけマネしたら組織が崩壊するでしょう。
社員一人一人が大人で、仕事そのものを楽しみながら成果をだせる方法を知っていて、自分で主体的に物事を作り出せる集団でなければ、「ルールをつくらない」という最大限に個人の自由がきく環境は成り立たないのです。
いかに仕事そのものを楽しめる環境をつくれるか。
どんな仕事であっても、そこには何らかの楽しさ、面白さがあるはずです。
それに気付いて楽しんでいる人もいれば、気付かずただ惰性に流されて仕事をしている人がいます。
仕事そのものの楽しさに社員が気付いていないのに、会社の居心地をよくしたり、賃金を高くしたり、福利厚生を整えたりしても、効果を発揮することはありません。もっと条件のいい会社に転職されて終わりです。大切なのは、あなたの会社の仕事そのものの価値を伝えることではないでしょうか。
社員の仕事がどんな未来につながり、どんな風に世の中を変化させていくのか、その未来像を語ることです。これをトップ自らが語る場をつくる、先輩たちがキラキラ輝いて仕事をしている職場を体感させる、さまざまな人が交流する場をつくることで、社員に気付いてもらうことです。
それが一番の会社の成長の原動力となるのです。
社員に気付きを与え、福利厚生を整え、賃上げにも取り組んでいく。
このような順番で組織力を高めていくのが、これからの中小企業の成長の道だと考えています。
著者プロフィール
岩崎 剛幸(いわさき たけゆき)
ムガマエ株式会社 代表取締役社長/経営コンサルタント
1969年、静岡市生まれ。船井総合研究所にて28年間、上席コンサルタントとして従事したのち、同社創業。流通小売・サービス業界のコンサルティングのスペシャリスト。「面白い会社をつくる」をコンセプトに各業界でNo.1の成長率を誇る新業態店や専門店を数多く輩出させている。街歩きと店舗視察による消費トレンド分析と予測に定評があり、最近ではテレビ、ラジオ、新聞、雑誌でのコメンテーターとしての出演も数多い。
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