1泊400万円超も 「超高級」外資系ホテル、日本に続々初進出のワケ 専門家に聞いた:瀧澤信秋氏が解説(2/2 ページ)
富裕層の外国人旅行者の需要を見込み、日本初となる外資系の超高級ホテルが都内に相次ぎ進出している。4月4日、JR東京駅前にイタリアの高級ブランド、ブルガリが「ブルガリホテル東京」をオープンした。今秋にかけてハイアット系列の「ホテル虎ノ門ヒルズ」、アマン系列の「ジャヌ東京」などが開業を控える。なぜいま、超高級ホテルの日本初進出が相次いでいるのか。ホテル評論家の瀧澤信秋氏に話を聞いた。
ホテルの会員プログラム
外資系の超高級ホテルが続々進出するのは、各ホテルが富裕層の満足度をより高める必要性もあるためだ。ホテルチェーン各社はそれぞれ、ホテルの会員プログラムを持つ。航空会社のマイレージプログラムに似ており、利用に応じてポイントが加算される。ポイントが増えれば会員グレードがアップし、上級会員になるとさまざまな特典を受けられる。
旅慣れた富裕層の外国人旅行者は、海外旅行先でも普段よく使うホテルと同じ系列のホテルに宿泊することが多いという。
瀧澤氏は「海外からの高級ホテルを利用する多頻度旅行者が満足のいく、目新しいホテルが日本に少ないというのは事実。これは、自分がひいきにする系列のホテルブランドが少ないということと表裏一体にある」と指摘する。ポストコロナで観光需要が回復する中、海外富裕層の期待に沿うためには、サービスクオリティが担保される外資系ホテルの数がより求められているという。
外資系ホテルの中でも超高級といわれるホテルの進出は、富裕層のニーズに応えるほか、都市機能の観点からも求められるものだと瀧澤氏は指摘する。
例えば、国際会議などを誘致するためには、スイートルームなどを有する一定数の高級ホテルなどがあることが条件のひとつとされる。瀧澤氏は「ホテルを見ればその都市の文化的な成熟度が分かる」と指摘。近年は、国際会議などの誘致をにらみ、外資系高級ホテルの誘致に注力する地方自治体も多く、東京や大阪の大都市圏だけでなく、地方の中核都市にも外資系高級ホテルが進出している。
人手不足が深刻化するホテル業界
超高級ホテルが相次ぎ進出する一方で、ホテル業界は人手不足が深刻化している。
帝国データバンクが1月に実施した調査によると、「旅館・ホテル」の正社員の人手不足割合は77.8%となり、業種別で最も高かった。非正社員の人手不足割合も「旅館・ホテル」は81.1%で最も高い。インバウンド需要の高まりで、人手不足が群を抜いて目立つ形となっている。
観光需要を喚起する政府の「全国旅行支援制度」でホテル業界の疲弊が伝えられたのは記憶に新しい。低賃金も影響して人材が集まらず、新たなホテルが開業するたびに業界内でパイの奪い合いが発生。新しい高級ホテルができれば、既存ホテルから人材が移動し、特に一定のエリアという条件下においては、周辺の既存ホテルのサービスレベルが下がるケースもあると瀧澤氏は話す。
「超高級外資系ホテルの進出が話題を集める一方で、背後にはこうした人手不足の問題があることも知ってほしい」と瀧澤氏は指摘している。
話を聞いた人
瀧澤信秋(たきざわ のぶあき/ホテル評論家 旅行作家)
一般社団法人日本旅行作家協会正会員、財団法人宿泊施設活性化機構理事、一般社団法人宿泊施設関連協会アドバイザリーボード。埼玉大学大学院人文社会科学研究科博士前期課程修了。修士(経営学)。
日本を代表するホテル評論家として利用者目線やコストパフォーマンスを重視する取材を徹底。その忌憚なきホテル評論には定評がある。評論対象は宿泊施設が提供するサービスという視座から、ラグジュアリーホテルからビジネスホテル、旅館、簡易宿所、レジャー(ラブ)ホテルなど多業態に渡る。テレビやラジオ、雑誌、新聞等メディアでの存在感も際立ち、膨大な宿泊経験という徹底した現場主義からの知見にポジティブ情報ばかりではなく、課題や問題点も指摘できる日本唯一のホテル評論家としてメディアからの信頼は厚い。
著書に「365日365ホテル」(マガジンハウス)、「最強のホテル100」(イースト・プレス)、「辛口評論家、星野リゾートへ泊まってみた」(光文社新書)など。
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