日銀の植田和男新総裁による就任記者会見、期待されている発信力はどうだったか 非言語は課題あり(2/3 ページ)
10年ぶりの交代となった日銀総裁。植田和男新総裁が副総裁2人と共に就任会見を4月10日に開いた。岸田文雄首相は日銀の黒田東彦総裁の後任にふさわしい人物像について「主要国の中央銀行トップとの緊密な連携、内外の市場関係者への質の高い発信力と受信力が格段に重要になってきている」とコメント。日銀総裁に求められる発信力と受信力とは何か、広報の観点から考える。
経済理論×英語コミュニケーション力が求められる時代に
桜内: 発信力強化という意味ではないでしょうか。日銀総裁人事は、これまで財務省の事務次官経験者と日銀のプロパーとのたすき掛けでした。ところが、黒田さんは事務次官経験者ではなく、国際担当の財務官、トップを務めていました。事務次官というのは国内畑ばかり。財務省の中では国際派になるとトップの事務次官になれないとされてきました。
むしろ、黒田さんが異例の抜擢。今後は事務次官経験があればいいというのではなく、国際的発信力が重視されるようになるといえます。氷見野良三さんは金融庁長官経験者で国際派です。国際的会議でも議長役を務めるなど活躍してきています。
石川: むしろ国際的な発信力のある力が総裁、副総裁に求められるようになるということですか。
桜内: そうです。植田総裁は、マサチューセッツ工科大学で博士号もとっています。IMF(国際通貨基金)の職員は博士号取得者の集まりですから、そこと渡り合うためには、経済学理論を踏まえた上で英語でコミュニケーションできる力が必要です。
石川: 新総裁、副総裁は3人とも国際派なのでしょうか。3人のバランスはどう見ればいいのでしょうか。
桜内: いえ、副総裁の内田眞一さんは、日銀プロパーですが国内派です。日銀の中で金融政策の立案に長く携わってきていますから適任でしょう。植田総裁、氷見野副総裁は国際派ですから、今回の人事は黒田体制よりも質が高いといえます。
石川: 質の高い発信力の前にそもそも質の高い人事になっているということですか。
桜内: 黒田体制において、日銀審議委員の中に博士号を持つ人がいなかったんです。他国ではありえない。日本は学歴社会といわれているのに博士号とか専門性を尊ばない。
石川: 学歴社会なのに博士号は重視されない。不思議な現象ですね。ここは改めて議論したいテーマです。記者会見の話に戻ります。今回の就任会見、植田総裁の説明力、発信力はどう見たらいいでしょうか。また、記者の質問はどうでしたか。
桜内: 質問はうまく割り振っていたし、悪くないと思います。植田総裁の基本的な回答スタンスは無難な回答で、「現状は維持する。副作用に考慮しつつ、今後点検していく」と言い方で言質を取られない形でした。注目すべきは、質問がないのに発言した部分です。
「もう一つ、ここまでそれほど今日出てこなかったところと致しましては、急に持続的・安定的に2%になるということに気づいて、急に政策を正常化するということになると、非常に大きな調整をしないといけないですし、それに応じて市場・経済も大きな調整を迫られるということがあるかと思いますので、なるべくそういうことがないように、前もって的確な判断ができるようにしていかないといけないということかなと思います」
ここには強いメッセージ性を感じました。
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