“悪文”でも伝わるのはなぜか 大切なことは:伝えたいこと(3/3 ページ)
文章がうまくなくても、他人に伝わることがある。どのようにすれば、分かりやすく伝えることができるかというと……。
でも、「伝えようとしていること」はちゃんと分かります。
「その教育者の話を聞いたことで、これまで自分が人を大切にしてこなかったと気がついた。今後はそんな自分を改めていきたいと思っている」という書き手の思いは理解できるし、納得もできる。共感を覚える人も出てきそうです。
前者は、いってみれば美文です。でも、「伝わらない」。
一方の後者は、どちらかといえば悪文ですが、「伝わる」。
ここで注目したいのは、なぜ悪文でも「伝わる」のか、です。
その最大の理由は、書き手の頭のなかで「伝えるべきこと」がはっきりイメージされていることにあります。
書き手が「伝えるべきこと」を明確に意識できていると、なにを書くべきか、どう書くべきかといった判断がつきやすく、必要な情報を見きわめることができるようになります。
その結果、少しくらい表現が雑でも、構成がととのっていなくても、盛りこむべき情報がきちんと盛りこまれた文章になりやすい。だから、伝わりやすくなるのです。
一方、書き手のなかで「伝えるべきこと」が曖昧なままだと、そもそも盛りこむべき情報を見きわめられないうえに、適切に話を方向づけることもできません。
平たくいえば、なにを書けばいいのかが分からない状態です。
まさに先ほどの前者の例がそうですが、そうなると、どこかで聞いたような耳あたりのよさそうな文言やとりとめもないこと、あるいは型どおりのあいさつなどを書き連ねてしまいがちになります。
結果、「それっぽいけど、なにをいいたいのか分からない」「伝わらない」ということになってしまう。
書き手が「なんとなく」としか分かっていないことは、言葉をつくしても「なんとなく」としか伝わりません。
自分が「はっきり分かっていること」だから、「はっきり伝える」ことができるのです。
伝え方の一番の基本はここにあります。
【まとめ】
「はっきり分かっているから、はっきり伝えることができる」が基本。
この記事は、『「伝え方――伝えたいことを、伝えてはいけない。』(松永光弘/クロスメディア・パブリッシング)に掲載された内容に、編集を加えて転載したものです。
松永光弘(まつなが・みつひろ) 編集家
1971年、大阪生まれ。これまで20年あまりにわたって、コミュニケーションやクリエイティブに関する書籍を企画・編集。クリエイティブディレクターの水野学氏や杉山恒太郎氏、伊藤直樹氏、放送作家の小山薫堂氏、コピーライターの眞木準氏、谷山雅計氏など、日本を代表するクリエイターたちの思想やものの考え方を世に伝えてきた。自著に『「アタマのやわらかさ」の原理。クリエイティブな人たちは実は編集している』(インプレス、編著に『ささるアイディア。なぜ彼らは「新しい答え」を思いつけるのか』(誠文堂新光社)がある。
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