処理水をめぐって“愛国サンドイッチ”の危険性 企業が「日本人」とうまく接する方法:スピン経済の歩き方(6/6 ページ)
日本のホテルや飲食店に、音声読み上げソフトを用いてこんな嫌がらせ電話がかかってきている。原発の処理水をめぐって、バッシングが起きているわけだが、中国ビジネスを展開していくうえで気をつけなければいけないことがある。それは日本人で……。
平時の備えが大切
そしてもう一つは、平時からWebサイトやSNSでの情報発信を充実させておくことだ。日本端子の中国共産党ズブズブ疑惑が盛り上がったのは、「連鎖端子の製造販売」「コネクタの製造販売」を主な事業にしている日本端子の中身が一般の人に分かりづらかったことがある。
B2Bということもあって、Webサイトにもあまり製品や事業の情報がなかった。そのため、ネット民やジャーナリストの皆さんは好きにいろいろと「考察」ができてしまった。さまざまな研究で「デマ」というのは情報の少なさから生まれることが分かっている。
デマ騒動が落ち着いた後の22年4月、日本端子がWebサイトをリニューアルした。洗練されたデザインで、情報も整理されて見やすい。もうちょっと早くこうなっていたら、「日本端子って会社は中国共産党とグルになって太陽光パネル利権を貪っているらしいぞ」なんて話を聞いても、多くの人がWebサイトを見て「なんだデマじゃん」と気付いただろう。
危機管理というのは平時の備えが大切なのだ。
いずれにせよ、処理水バッシングはまだしばらく続く。ということは、中国からの嫌がらせにはらわたが煮えくり返っている「正義の日本人」が増え続けるということだ。
そういう人たちの怒りは中国だけではなく、「中国で稼いでいる企業」「中国企業をパートナーにしている企業」「中国人が好きな企業」にも向けられる。坊主憎けりゃ袈裟まで憎い、だ。
「わが社も中国でかなり稼いでいるな」と感じたそこのあなた、この手の問題は、処理水と同じで「突っ込まれる要素」が多いほど危ない。筆者の経験でも、怒りでわれを忘れたカスハラ客やモンスタークレーマーとは冷静な話し合いはできない。ましてや説得するなど考えないほうがいい。
「愛国サンドイッチ」の最も恐ろしいところは、なんの前触れもなく集団ヒステリックになることだ。ロシアがウクライナ侵攻をした際、「プーチンを倒せ」と叫ぶ正義の日本人がロシア料理屋やロシア人に嫌がらせをしたが、台湾有事が発生した際は、もっと深刻な中国人への嫌がらせや攻撃が起きるはずだ。
そのとき、中国ビジネス企業は、愛国心のある中国人からも、そして日本人からも「売国奴」として憎悪の対象になる。被害を最小限にするためにも、平時から「情報」で防衛をしておくことをお勧めする。
窪田順生氏のプロフィール:
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。窪田順生のYouTube『地下メンタリーチャンネル』
近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
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