非現実的な規制で庶民のアシが消滅する:池田直渡「週刊モータージャーナル」(6/6 ページ)
法律でBEVの販売を義務付けられている今、Bセグメントのクルマは今後どうなるのか。自動車メーカー各社の取り組みは。
Bセグを再定義している日産や三菱
一方で、日産や三菱は、Bセグメントモデルを新興国に向けた商品として再定義し、高品質を求められる先進国での戦線を縮小しようとしている。マツダは戦略を明らかにしていないが、本来退役時期を迎えているMAZDA2のフロントをBEV風にリデザインして、しばらくしのごうと考えているように見える。次期MAZDA2が出るのか出ないのかはまだ分からない。
自動車メーカー各社も、本当は庶民のアシとして活躍するBセグメントを切り捨てたいと思っているとは考えにくい。しかしそれでも、法律でBEVの販売を義務付けられ、市場と商品のポテンシャルを超えて売らなければならなくなった以上、心意気だけで続けるわけにもいかない。
BEVのゴリ押しが庶民のアシを奪う構図は少なくとも美しい話には見えない。マーケットが何を選ぶかを正確に予想するのは難しいし、ましてや「環境に良いから」という理由で、個人の財布に見合わない価格のBEVを買わせようとしても難しい。大本営が鐘や太鼓を叩いて推奨したところで、客が購入するクルマを自在に支配できるものではないのだ。購入補助金によるインセンティブまでは否定しないが、やはり原則としては自由競争によって、企業が切磋琢磨した結果、商品や価格が磨かれ、客のお眼鏡にかなって初めて売れるようになる。それは市場経済の基本だ。
規制や罰金ルールさえ作ればマーケットを支配できると考えるのはただの傲慢に思える。BEVを増やす努力はすべきだが、非現実的な規制でそれを推し進めるのは筋が悪すぎる。
環境が大事なのは分かるのだが、それと引き換えに切り捨てられるものを、社会全体がもう少し真剣に考えなくて良いものだろうか?
筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミュニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う他、YouTubeチャンネル「全部クルマのハナシ」を運営。コメント欄やSNSなどで見かけた気に入った質問には、noteで回答も行っている。
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